斉藤和巳2軍監督の指導論 プロの在り方…見てきた若手の姿「情がないは嘘になる」

キャンプの実りは自ら動く姿勢

 選手、首脳陣の思いや内面に迫る新連載「鷹フルnote」。今回は、今季から2軍の指揮を執る斉藤和巳監督が春季キャンプの手応えと指導者としての信念を明かします。アーリーワークからグラウンドに選手がいなくなるまで見守り続けた理由、そして感情を爆発させた若手に諭した「プロの在り方」。愛弟子たちに注ぐ、厳しくも温かい視線の先にあるものとは――。

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続きの内容は

バットを叩きつけた若鷹へ諭した「損」
「情がないは嘘になる」3年目若鷹への率直な思い
「お父さん的でもない」斉藤監督が語る選手との「無意識な関係」

――春季キャンプで一番実りを感じる部分は?
「実りを感じるのは、選手自ら練習の量をこなせるようになったこと。自分たちで考えて行動するようになったかなと。ピッチャーに関しては野手みたいに量はできないかもしれないけど。特に野手は、遅い時間までやっていた。遅くまでやればいいというものではないけど、間が長いわけでもなく、みんなそれぞれ考えて、朝のアーリーからしっかりやっていたかな。特に育成選手が多い。それはずっと見てきた選手なので。取り組む姿勢だったり、練習量をこなせるようになった体力面は、このキャンプで一番目に付いたかなという感じですね」

――キャンプイン前に「こういうキャンプにしたい」というものがあったのか。それがあったとしたら実行できたのか。
「まぁ俺が全部決めるわけではないからね。そこはコーディネーターもいるし、コーチともいろいろ話してやることもあるだろうし。全てを『こういう練習をしよう』と話しているわけではなくて。効率を考えた部分だったりは話したこともあるけど、ほとんどはコーチに任せているので。相談があったら基本的には『ゴー』。『やってみよう、やろうよ』という感じ」

――コーチから相談があった時は「もっとこうしたほうがいいんじゃないか」ではなく「ゴー」を出す?
「うん。それはコーチが専門的に考えていることなので。やってみて、もっとこうしたほうがいいなと俺が感じれば話せばいいことだし。コーチの中で『もうちょっとこうしたい』というのがあれば、すればいいし。自分がしたいじゃなく、選手にこういうふうに取り組ませたい、意識をさせたいというのがあるなら、どんどんやっていいと思うので」

――コーチからの提案は多かった?
「いや、そんなに少ないわけでもないし、多いわけでもない。3、4軍で一緒にやっていたコーチたちが多くいるので、今までと変わらずという感じで『こうしたいんですけど』もあれば、『こうします』もあった。『全然いいですよ』と」

――選手を育てるための意識の共有がされている。
「意見が出ないと意味がないので。これだけコーチもスタッフもいるので、みんなの脳みそを使ったほうがよりいいものが出る可能性がある。ただ、初めから正解かどうか、というところで動きが止まるのはもったいない。やってみて違ったら、次からやらなくていいわけで。練習は基本的には任せているし、試合に入ったら監督が指示を出していくわけなので。その中でもコーチにも頼るし、コーチからも意見がくるし。『こうしたいんです』という。それも全然やろうって言いながら」

見なきゃいけないなら「帰ったほうがいい」

――キャンプ中に監督が最後まで練習を見られていた。それはキャンプ前から決めていたこと?
「いや全然、何も決めてない。正直、そこまで深く考えていなかった。今までの3軍、4軍も経験してるんで、ある程度コーチがいろいろ考えてくれるのも見えているし。そこにコーディネーターが入ってきたりもするので。基本的に練習は監督の仕事がない。みんなが相談に来たり、了承を得に来たりするだけで、それに対して異があることもない。ただそれを理解したいということで、どういう意味かを聞くことがほとんどなので」

――練習を最後まで見ていたことは、監督にとって「見たい」と思って見ていたのか。「見なきゃいけない」という思いだったのか。
「『いけない』はないね。見なきゃいけないと思ったら何も入ってこないからね。選手の変化とか頑張っている姿とかも何も入ってこないので。その時点で帰ったほうがいいよね(笑)。それなら」

――少しでも選手の変化を見逃さないために。
「そうね。それもあるし、頑張っているなら見届けたいなというのは基本的にあるので。それは練習だけではなく、試合の中でもね。それを肌で感じたいと思ってるし。1軍となるとまたそこは別なんだろうけどね。結果の世界だから。2軍も結果の世界ではあるけど、育成選手が多いだけに、余計に見守ってあげなきゃいけない。見守りたいところもあるし。今後、試合が多くなったとしても、そのスタンスは基本的には変わらないし、何か彼らの力になれればと常に思っている」

――4軍、3軍、2軍と監督を務めてこられて、選手への接し方や、監督ご自身の考え方に変化は。または変わらないものは?
「2軍という組織なので、やらなきゃいけないことが変わるので。そのあたりは選手に対してこれからさらに変わっていくのかなという感じはします。選手に対して、何かが大きく変わることはない気はしているし、選手の性格、立場、年数、年齢は一応考えながらやるようにはしているけどね。1年目の選手は正直『お客さん』ぐらいの感じで。2年目なら、3年目なら……。24歳なら、25歳なら……。という感覚で接する時もある。そこはずっと一緒じゃないかな。ずっと見ている選手に対しても。特に高卒の育成選手たちはずっと一緒なので。1年目と2年目でも自分の中で変化はしているし、『3年目はちょっと違うよ』と。自分の中で見方も伝え方も変えているつもりではある」

――3年目の選手の活躍が目立つキャンプだった。佐倉俠史朗内野手、中澤恒貴内野手、長水啓眞投手、藤原大翔投手、大泉周也外野手など。思うところは?
「大泉に関してはアマチュアでキャリアを積んで入ってきているから高卒の選手たちと少し違う部分はあったりするけど。でも、一緒にやってきたんでね。そういう選手が頑張ってくれている。練習の成果が試合で出たりすると、やっぱり嬉しいよね。こういう言い方をしたらアレだけど、情がないっていうのは嘘になる。そこで何かを判断するかといったら、それはないけど。人間なので、気持ちの部分では違いを感じる時もある……。正直」

感情を爆発させた若手へ諭した「損」

――バットを叩きつけた選手に声をあげたこともあった。グラウンドやベンチでの姿勢について、プロとしてどうあってほしい?
「チームにマイナスなことはするべきではないし、する必要がない。ただ、悔しい気持ちを爆発させることは嫌いじゃないから。ただそれをベンチでやる必要があるのか? これは支配下の選手もフェニックス・リーグで見ていたけど。見て見ぬふりはしたけどね。ただ、爆発させる気持ちは理解できるし、嫌いじゃない。場所とタイミングをちゃんと理解しなさいよと。それをやったことでチームに何のプラスが起きるんだと。自分のストレス発散のためだけにやるなら、1人の空間でやればいいんじゃない、というのはあるので。やるなとは言ってない。ただチームとして『やるな』になれば、それはルールなので。そうならないようにどう仕向けていくか。そこまでのしっかりしたルールは聞いていないので。別にそういう気持ちを怒ったわけではない」

――監督自身も若い頃に失敗した経験があるからこそ、伝えられるものがある?
「若い頃は俺もやったことあると思うけど、それを反省したこともある。あまり大きな声で言えないけど、実際1軍でもベンチにグラブを投げたりとか。でもそれは試合が終わってから。裏で暴れたりとかは全然あるけど。選手にはよく言うけど、損をしてほしくないので。その時のちょっとした自分の感情がコントロールできない瞬間に犯した言動で損をしてほしくない。2軍にいる選手たちはいろんなことが未熟なので、試合の中でも自分の結果次第では姿が変わったりする。それは本人にとっては絶対にプラスじゃないんでね」

――今の選手たちにとって、監督は「お父さん」的ですか、それとも「お兄さん」的ですか?
「それは選手に聞いて(笑)。俺はわからん。どっちにしようとかは思っていないし、指導者という感覚でもないのかもしれない。じゃあ教育者かと言われたらそんな感じでもないし。その時その時の状況や空気感で無意識に接している感じかもね。『こうじゃなきゃいけない』というのはない」

いつか訪れる「答え合わせ」

――今指導している選手たちも、後々指導者になるかもしれない。指導者として見せたい姿はあるか?
「そこはない。見せたいというのは基本的にはない。いつかみんなユニホームを脱ぐわけで。その先の人生がどうなるかもわからない。全然違う仕事に就くかもしれないし、みんなそれぞれの人生を歩むわけであって。その時に『あの時、和巳さんが言ってたことはこういうことか』と思い出してくれたら、そんな幸せなことはないし、それが一番の答え合わせ。こっちとしては。ただ、そうじゃないことのほうが多いかもしれないし、それを目指してやっているわけでもない。ただそうやって思い出してくれる。『あの時こういうふうに言ってくれたな』というのがあれば、そんな最高な瞬間はないよね」

「選手の人生のちょっとした中に自分が入れたようなね。ちゃんと向き合っていてよかったなと思えるだろうし、それが最高なんじゃないかなって。それはいつかみんな社会に出るわけで、野球の中でいろいろ気づいてくれたら最。結果を残していい思いをしてくれたら一番最高だけど、そんな甘い世界でもないし。野球を」辞めた後でも、周りの人から必要とされてほしい。『やっぱりホークス出身の人は違うね』と思われたら、また嬉しいし。選手が『これはホークスで学んだことです』とか『コーチから言われてずっと気をつけているんです』とか。そういうことを考えたら、毎日を無駄にはできひん。こちらのちょっとした隙であったり、感情だけで動いてしまうと、信用や信頼なんて一瞬で手放してしまうから」

――監督自身も指導者から言われた言葉を思い出すことがある?
「場面場面でそれはあるよ。そんなに数多くはないのかもしれないけど、いいものも覚えてるし、悪いことも覚えている。それを自分の人生に当てはめたり、新しく自分で作ったりという感じかな」

――最後に。この1年をどんなシーズンにしたい?
「常日頃から思っているのは選手だけじゃなく我々指導者も、スタッフも、2軍という組織に関わった人たちが少しでもみんなで成長できるようなシーズンにしたい。それがチームにとっても、組織にとっても一番いいことなので。選手の成長は大事な部分ではあるけど、そのためには我々も成長しないと。学んでいかないといけない。最終的に『あぁ、みんな成長したな。こういうことが学べたな』と、それぞれが思えるシーズンになればマイナスはないかなと思うので。その先に『今年も楽しかったな』で終われたら、なお幸せなので。そういうシーズンにできたら。クラブというか部活みたいな感じになっているけど(笑)。漠然とはそんな感じかな。そんな甘いものではないと思ってる。成長したいね」

(飯田航平 / Kohei Iida)