上茶谷が見せた“兄貴肌”
普段から後輩を気にかけていなければ出てこない、温かいメッセージがあった。9月26日に左肘のクリーニング手術を受け、約1週間の入院生活を送っていた前田悠伍投手。将来のエース候補と期待される左腕が過ごしていた病室に、突然の訪問者が現れた。
昼食が運ばれてきたタイミングで突然現れた、ひときわ大きな影。「『誰?』って思ったら、チャさんだったんです」。驚きを隠せなかった左腕の前に姿を見せたのは、今季からホークスの一員となった上茶谷大河投手だった。2月に右肘のクリーニング手術を行なった右腕だったからこそ、入院を余儀なくされた後輩左腕の気持ちはよくわかった。連絡なしのサプライズ訪問。その手にあったのは、2冊の本だった――。
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続きの内容は
・上茶谷が前田悠伍に贈った本の真意とは
・先輩が見抜いた前田悠伍の意外な「癖」
・前田悠伍が明かす、入院中の「成長」
「あいつがうるさいんですよ、『見舞いに来い』って」
「僕も病院に行く予定があったので。たまたま車に乗っていた本を『読んどけ』って渡しました」
そう冗談を交えつつ、上茶谷は照れくさそうに笑った。「あいつがうるさいんですよ。『見舞いに来い』とか。入院前からずっと言ってたので、行きました」。後輩の“おねだり”に応えた右腕が持参した2冊の本。本当は車に置いていたわけではなく、前田悠のために用意していたものだった。
渡した本の題名は「反応しない練習」と「脱力トレーニング」だった。「『本が読みたい、本が好きです』とか言うから、『じゃあ読んどいたら』って」。特に「反応しない練習」という1冊を渡したことについては、上茶谷なりの理由があった。そこには後輩への“深い愛情”が隠されていた。
「あいつ、周りを気にしすぎるからうるさいんですよ。だから『お前にはこれが必要やから、入院中に読んどけ』って渡しました。悠伍には、この本を読ませた方がいいかなと思って。未来を担うサウスポーなので」
「お前は反応しすぎ」先輩が見抜いていた後輩の”癖”
前田悠自身も「いろんなことに反応している」と思い当たる節があった。周囲の言動や出来事に対して過敏に反応し、それがストレスにつながっていた。“自分のことに集中しろ”という先輩からのメッセージを、素直に受け止めた。「それがめちゃ面白かったし、もう『チャさんいい人だな』と思いました」。20歳の左腕は素直に感謝の言葉を口にした。
「入院中に自分の動画を見たり、本を読んだりして勉強していました。それを自分なりに落とし込んで。それに加えてトレーナーさんとも話をして、『こういう感覚なんですけど』という会話もより深くできていますね。シーズン中よりもめちゃくちゃ練習がはかどっています」
突然のお見舞いと、手渡された2冊の本。それは、一見不器用に見える先輩が示した、後輩への最大限の愛情表現だった。「面倒見がめちゃくちゃいいというか。普段はああいう感じで接してもらっていますけど、考えてくれてるなって」。感じ取った先輩の優しさを胸に、前田悠は来シーズンのマウンドを目指す。周囲の喧騒に心を惑わされることなく、自分自身の投球に集中してほしい――。上茶谷からの粋なプレゼントには、優しいメッセージが込められていた。
(飯田航平 / Kohei Iida)