待望の一発も…柳田悠岐の「試行錯誤」 首脳陣が語った“本塁打以上の価値”

3号アーチを放った柳田悠岐【写真:小池義弘】
3号アーチを放った柳田悠岐【写真:小池義弘】

本拠地最終戦で放った豪快弾

 大黒柱のバットが快音を響かせた。レギュラーシーズン本拠地最終戦となった3日のオリックス戦(みずほPayPayドーム)。6回に柳田悠岐外野手が放った一打は、誰もが待ち望んでいた半年ぶりの今季3号特大アーチとなった。左中間スタンドに突き刺さった豪快弾は、クライマックスシリーズ(CS)、そして日本シリーズ進出を目指すチームにとって、これ以上ない追い風だ。

 しかし、熱狂に包まれたドームとは対照的に、柳田本人と首脳陣は冷静にその一打を受け止めている。柳田自身は「いいバッティングができました」と、手応えを口にしながらも「試行錯誤しながらやっています」と、あくまで過程であることを強調。奈良原浩ヘッドコーチもまた、「(CS前に)ホームランが出るのは全然違う」とその価値を認めつつも、慎重な姿勢を崩さない。その言葉に隠された、百戦錬磨の主砲に寄せる本当の期待とは何か――。

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柳田が語る、好調時とは違う「打撃の術」の真意
奈良原ヘッドが明かす、柳田への「本当の期待」
不調でも信頼される、柳田の「勝負強さ」の源泉

「あれだけのキャリアがあったら、状態が良い悪しではなく、悪くても『こうすればパフォーマンスを発揮できる』という術を持っている。特にギータの場合はずっとレギュラーでやっている選手だから、なおさらだと思いますよ」

 奈良原ヘッドが語る“術”こそ、これから先を見据えるうえで大きな武器となる。その真意は、柳田悠岐という選手のキャリアそのものへの信頼だ。今のコンディションの中で、いかにして最高のパフォーマンスを発揮するか。それを理解し、実行する対応力と技術を持っている。それこそが、一発の本塁打以上に、首脳陣が絶対的な信頼を寄せる理由だ。

繰り返した「試行錯誤」の意味

 柳田自身も、どこまでも冷静だ。「この本塁打はCSに向けて勢いがつくのでは」という問いにも「どうなんですかね。また練習からいろいろ試しながらやりたいなと思います」と語るにとどめ、結果に満足する様子は一切ない。それも、自身の状態を正確に把握し、持てる力のすべてを勝利のために注ぎ込むための「準備」に他ならない。

 その姿勢を、奈良原ヘッドも深く理解している。「万全の状態に比べれば出力は出ていないのかもしれない。だけどその中でホームランが出たっていうのは、『今の体のコンディションだと、こうすれば、こういう当たりが出る』というひとつ(の指標)にはなると思う」と、柳田の胸中を代弁するように語った。

 思い出されるのは、昨季の日本シリーズだ。同じく怪我による長期離脱から土壇場で復帰し、横浜スタジアムのバックスクリーンへ叩き込んだ。頂上決戦で見せつけた勝負強さを誰もが知っているからこそ、チームは揺るがない信頼を寄せる。経験豊富な大黒柱が示した復活の一打には、大きな意味が込められている。

(飯田航平 / Kohei Iida)