5回のチャンスで内野安打…プロ15年目で初の規定打席
世界一に輝いても、自信は持てなかった。だが、ようやく胸を張って“2人”に肩を並べられそうだ。10-2と大勝した3日のオリックス戦(みずほPayPayドーム)。「3番・二塁」でスタメン出場した牧原大成内野手は3打数2安打を記録し、打率.304に上昇させた。チームメートの柳町達外野手と白熱したタイトル争いを繰り広げていたが、小久保裕紀監督は「きょうで勝負あった」と言い切った。プロ15年目にして、初の規定打席到達。背番号8は、追いかけ続けた“せんたく”の名前を口にした。
初回無死一塁、2番の柳町が打席に立つ。左腕・佐藤から右翼席に先制の6号2ランを放ち、タイトル争いの重圧をものともしない一打を放った。「最初に達が打っていたので『うわ、やばいな』と思いました」と牧原大も当然意識はしていた。しかし、その直後の打席、初球を叩くと打球は、左前に弾む安打となった。「打った瞬間は捕られるかなと思ったんですけど、落ちてくれてよかったです」と胸を撫で下ろした。
5回1死一、二塁ではドラッグバントを決めて内野安打に。この日5打数1安打で打率.292となった柳町との差を広げ、育成出身選手では史上初となる首位打者のタイトルを確実なものとした。試合後、牧原大は真っ先に、千賀滉大投手(メッツ)と甲斐拓也捕手(巨人)の名前を挙げた。2年前にも語っていた嫉妬と羨望がそこにはあった――。
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続きの内容は
牧原大成が明かす、盟友への「嫉妬と羨望」の真意とは?
監督が語った「何があっても3打席」の真意と決断?
首位打者争い中の「葛藤」と、その時に秘めた本音とは?
千賀はNPB時代に投手タイトルを何度も獲得
「(自分がタイトルを獲ることで)育成選手の目標になってほしいと思いますし、あの千賀と拓也に追いつけたのは、大きいですね。拓也も打撃タイトルは取ったことないと思うので。ここから胸を張って『同期だ』って、『一緒にやってきた』って言えるのかなと思います」
2010年の育成ドラフト同期入団。千賀は海を渡り、甲斐はセ・リーグへ移籍。今は全員が別々のチームでキャリアを歩んでいるが、牧原大にとっては背中を追いかけてきた存在だ。千賀はNPB時代、最高勝率も含めた投手主要4タイトルを全て獲得し、2022年オフに海外FA権を行使してメジャーに挑戦。甲斐もホークス在籍時に6年連続を含む7度のゴールデングラブ賞や、3度のベストナインも獲得し、日本を代表する捕手となった。
牧原大の通算737安打は育成出身では歴代最多だ。しかし、本人は「やっぱり目立つのはあの2人だったので」と首を横に振る。そして「これでやっと仲間に入れたのかなと思います」と目を細めた。自分だけのポジションを築くために、3桁から這い上がってきた。首位打者という輝かしい称号を手にし、初めて盟友たちと対等になれる。他の誰でもなく、牧原大自身が納得できる瞬間が、ようやく訪れそうだ。
2年前の2023年、甲斐とともにワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に出場した際には、悲壮な思いを語っていた。「正直、あの2人には嫉妬していたんです」――。怪我で辞退した鈴木誠也外野手(カブス)に代わって、代替出場となった牧原大。千賀もMLB挑戦1年目だったことを考慮され、栗山英樹監督が招集を見送った背景がある。3人の存在が、“侍ジャパン級”であることが証明された大会でもあった。
試合前に決まっていた「何があっても3打席」
今は別々のチームとなり、牧原大はプロ15年目で初めて規定打席に到達した。2022年は残り2打席で届かなかっただけに、どうしても掴みたかった“勲章”のひとつだ。この日の試合前、小久保監督から「きょうは何があっても3打席」と伝えられていた。「僕はもう規定打席に行ければよかった。あとは打率的にも達が追い上げてくるだけ。仮にきょう、達が4の4とか5の5を打っていても、『僕はその後の打席は立ちません』という話はしました」とその舞台裏を明かす。
9月27日にリーグ優勝が決まってからの消化試合。しかし、牧原大にとっては1打席1打席が勝負だった。第3打席のドラッグバントについても「すごく葛藤しましたね……。得点圏だし打った方がいいのかなって」と素直に認める。「今まではチームのために打ってきましたけど、こんな(自分のことを意識して打席に入った)ことは今までなかったです。2割台の首位打者も記憶には残るかもしれませんけど、とにかく3割を切らなくてホッとしています」。見せたことのない表情は、どれほどタイトルを欲していたのかを物語っていた。
ZOZOマリンスタジアムで行われる5日のロッテとの最終戦。牧原大は欠場し、ベンチから戦況を見守る予定だ。「まだ確定ではないですからね」。ともに育成からレギュラーに這い上がり、ホークスを支えてきた“せんたくまき”。首位打者という最高のタイトルを手に、胸を張って2人に会いに行ける。
(竹村岳 / Gaku Takemura)