
リーグ連覇も「しんどいことばっかりでしたね」
2年連続のリーグ優勝を飾ったホークス。鷹フルは、海野隆司捕手を単独インタビューしました。甲斐拓也捕手の移籍により、ポジション争いが注目されたシーズン。「しんどいことばっかりでしたね」と胸中を打ち明けました。“比較”に苦しんだ春先。自分の弱さを受け入れ、漏らした本音は「俺ってショボいんやな」――。
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最後はマスクを投げ捨てて歓喜の輪に飛び込んだ。「しんどいことばっかりでしたね。特に最初の方は勝てないし、どうやったらうまくいくんやろうってずっと感じていたので」。絞り出した言葉は、歩んできた道のりの険しさを物語っていた。偉大な捕手がチームを去り、真価が問われたシーズン。海野は想像を絶するほどの重圧を背負っていた。
自分に対して何度も“失望”した。悪夢のようだった春先の連敗。他人との「比較」に、人知れず苦しんでいた。飛躍のきっかけとなったのは、己の弱さを受け入れたことだ。
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続きの内容は
・海野隆司が感じてしまった“ギャップ”の正体
・配球において絶対に忘れなかった意地と信念
・リーグ優勝に輝いた海野が「自信がある」と誇った数字
高谷裕亮コーチも「かなり厳しいことを言った」
「『もっとできるのにな』って、自分自身に期待していたんです。考えながらやっていたし、自分に対して勝手にプレッシャーをかけていたところもあった。それこそ『俺ってこんなショボいんやな』って感じました。交流戦くらいから周りの目を気にしないようになって。どうやってチームを勝たせるか、ピッチャーを助けられるかということだけを考えられるようになりました」
リーグ連覇を目指して始まった2025年。3、4月は9勝15敗2分けで単独最下位に沈むなど、まさかの結果を重く受け止めた。自然と意識してしまったのは、やはり甲斐の存在だった。「最初はそれしか考えていなかったです。誰かと比べられて評価される。実際はそんなこと思われていないのかもしれないですけど、自分の中ではそう感じてしまっていました」。痛々しいほどの自己評価。4月29日の日本ハム戦後には、杉山一樹投手から配球について厳しく言及された。「もっとできるのに」――。理想と現実のギャップは、それほどまでに大きかった。
高谷裕亮バッテリーコーチも「かなり厳しいことを言った」と明かす。5月から上向き始めたチーム状態。逆襲するためには、もう海野が変わるしかなかった。「(高谷コーチには)『打たれたら、こっちの責任にしてくれたらいいから』みたいに言われていたんですけど、自分の中でそれは悔しかったですね。僕だって打たれていいと思っていないですから」。誰かに責任を預けるのではなく、全てを背負ってマスクを被る。“答え”がない配球面においても、意地と信念だけは絶対に忘れなかった。
「最初は色々と考えすぎて、試合中にバッターの反応を見る余裕もなかった。データばかりを頭に入れていたんですけど、徐々に周りを見られるようになりました。一番は、実際に座ってみてバッターの反応やピッチャーのいい球をすり合わせながら、自分の中で根拠を持って話すようにしていること。だからそれまでの準備が大切なんです。根拠がないとピッチャーも納得しないし、自分も後悔してしまうので」
モイネロ&有原とのバッテリーで思い知った“重み”
投手とのコミュニケーションはもちろん、とにかく自分自身にフォーカスした。「スローイングもそうですけど、しっかり止めて、捕ることです。いくらこっちが『低めにボール球を投げてくれ』と言っても、技術がないとピッチャーも不安になる。『本当に大丈夫だから』と言えるだけの力をつけて、そのうえで根拠を持って伝えてきた」。課題を明確にして戦い、気づけば“比較”の思考は消えていた。チーム暴投数16はリーグ最少。「そこはすごく自信を持っています。失敗したことが今につながっている」と胸を張る数字だ。
リバン・モイネロ投手、有原航平投手の“両輪”とバッテリーを組み続けたのもハイライトの1つ。半年間を戦うペナントレース。カード頭で勝つ重要性を身をもって知った。「本当に大事なんだなと感じました。チームが勢いに乗れるか、乗れないか。交流戦なんか6カード連続で3試合ずつだったので。その1試合目を取れば、次戦の余裕にもつながる」。相手のエース級と何度も演じた投手戦は、確かな自信へと変わっていた。
開幕投手を務めた有原とは、4月11日からバッテリーを組んだ。黒星が続いた時には、話しかけづらい瞬間が「確かにある」とも話していた。「ぶつかったりというか、有原さんから色々と言われることはもちろんありました。自分も『そうだよな』と思っていたので、コミュニケーションって大切だなって本当に思いました」。腹を割った投手との対話が、海野を成長させた。周囲がくれた数々の厳しい言葉も、優勝した今は貴重な財産だ。
2024年シーズンは、配球が「夢に出てきて、寝られないこともある」と語っていた。激動の1年間を経て、歓喜の中心で心から笑っている。「去年は大げさでしたね。今はそうでもないんじゃないですか? 今年の方がしんどいですけど、試合に出られることって楽しいですよ。怖くないキャッチャーはいませんから」。比較なんて必要ない。一人の捕手として、海野隆司は強くなった。
(竹村岳 / Gaku Takemura)