牧原大成の好調を徹底分析 球史でも特異すぎる“超積極性”…12球団断トツの「.391」

牧原大成【写真:古川剛伊】
牧原大成【写真:古川剛伊】

プロ15年目で首位打者獲得の可能性も

 日本ハムとの激しい優勝争いが続く中、大きな存在感を見せているのが牧原大成内野手だ。例年は守備面でのユーティリティ性で注目を集めることが多かったが、今季光っているのは打撃面。ここ最近はクリーンアップに入ることも増え、ここまで打率は.307。規定打席には到達していないものの、このまま打席を重ねれば首位打者獲得も現実味を帯びてきた。15年目の今シーズン、牧原大の打撃は例年と何が違うのだろうか(※データは9月7日終了時点)。

 まず前提として押さえておきたいのが、牧原大が極めて特殊な打者である点だ。ホークスファンなら実感しているかもしれないが、その打撃は超がつくほど積極的である。NPB平均のスイング率(スイング÷投球)が45%程度であるのに対して、牧原大は2023年にスイング率57.0%を記録。これはこの年に150打席以上に立った打者147人の中で、最も高い値であった。この年に限らず、牧原大は毎年55%程度のスイング率を記録しており、NPBで最も積極的な打者の一人と言って差し支えない。

 牧原大のアグレッシブさが、今季はさらに増している。例年55%程度だったスイング率が今季はなんと61.1%と“大台”に到達。DELTAが保有するデータを見てみると、2014年以降にシーズン300打席をクリアした打者のべ1010人の中で、牧原大のスイング率は歴代2位の数字である。今季の積極性は歴史的とも言えそうだ。

 ただし、積極的にバットを振っていくこと自体は良い面ばかりではない。もちろん甘い球は積極的に手を出していくべきだが、スイングが増えると自ずとボール球に手を出すことも多くなる。今季の牧原大も例外ではなく、ストライク球のスイング率が昨季の70.4%から78.2%に増加している一方、ボール球スイング率もまた43.0%から45.5%へと上昇している。積極性にはネガティブな面もある。打撃好調だからといって、それが今季の積極性に起因しているとまでは断言できない。

 前述したように、積極的なスイングには良い点もあれば悪い点もある。ただ例年以上に振り切った牧原大の積極的なスタイルが、凄まじい成果につながっているケースもはっきり見つかっている。それは打者有利の場面だ。

“打者有利カウント”でハマる「超積極性」

 例えば自分が投手であるとイメージしてみよう。ある打者への初球がボールになったとする。続く2球目も外れて2ボール0ストライクとなると、極端に打者有利の状況となる。初球がボールになれば、2球目にストライクを投げたくなるのは想像しやすい。実際に今季のNPBのデータを見てみると、初球がストライクゾーンに投げ込まれる割合は47.9%。これに対し、初球がボールになったあとのケースでは、51.9%に跳ね上がる。当たり前ではあるが、打者有利のカウントになれば投手はストライクを欲しがるのだ。

 そして、そうした投手の“習性”を逃さないのが牧原大の「超積極性」である。早いカウントからどんどんスイングするスタイルは、ストライクが投げられることが多い打者有利のカウントでより効果を発揮しやすい。牧原大のシーズン打率は.307。この時点で十分高いが、初球がボールになった打席に限定すると、打率は.390まで跳ね上がる。これは今季、初球ボールの打席が100回以上あったNPBの打者86人の中でトップの数字である。牧原大を相手にカウントを悪くすると、待ってましたと言わんばかりにヒットにしてくるのだ。

 この突出した打率も偶然ではなく、しっかりと良い打球を打つことで安打が出ているようだ。牧原大が放ったライナーの割合を、カウント別に見てみよう。今回カウントは投手有利、中立、打者有利の3種類に分けた[1]。

 3つのカウント別に打球傾向を見てみると、牧原大が打者有利の場面で打率を残していることが偶然ではない様子がわかってくる。ライナー割合は投手有利、あるいは中立カウントでは10%弱にとどまっており、これは平均的な水準である。しかし、これが打者有利のカウントになると、数字は22.2%まで跳ね上がる。投手は打者有利のカウントでストライクを欲しがる。その傾向に超積極打法が噛み合い、かなりの高確率で投球を捉えているのだ。打者有利になればなるほど、牧原大のペースになっていくのだ。

 甘い球を確実に仕留めるホークスの打者といえば、“レフティスナイパー”こと中村晃外野手を思い浮かべるファンが多いだろう。ボールを選んで選んで一振りで仕留める中村に対し、牧原大のスタイルはイメージが異なるかもしれない。ただ甘い球を高確率で仕留めるという点では、ある意味共通しているようにも思える。「超アグレッシブなスナイパー」牧原大はカウントの力学をうまく利用して、クリーンヒットを連発しているようだ。

[1]カウントは以下のように分類した
投手有利:0-1、0-2、1-2、2-2
中立:0-0、1-1、3-2
打者有利:1-0、2-0、3-0、2-1、3-1

DELTA http://deltagraphs.co.jp/
 2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する「1.02 Essence of Baseball」の運営、メールマガジン「1.02 Weekly Report」などを通じ野球界への提言を行っている。(https://1point02.jp/)も運営する。