ピンチで選択した内角への3球勝負
バッテリーの思いが共鳴した会心の見逃し三振に、思わず拳を握った。5日の楽天戦(みずほPayPayドーム)、先発の大津亮介投手が7回無失点の好投で今季4勝目をマークした。相手打線に7安打を許したものの、要所を締める粘り強い投球。打線の大量援護があった中でも、1点も許さないという気迫がマウンドから伝わってきた。
そんな中で、特に目を引いたのが6回だ。2本の安打を許して迎えた2死一、二塁のピンチ。一発のあるフランコを2球で追い込むと、海野隆司捕手は迷わず内角にミットを構えた。最後はインコースへのツーシームで見逃し三振。右腕は雄叫びをあげ、力強いガッツポーズを見せた。
点差はあったものの、どんな展開であっても失点を許したくないのが投手心理だ。なぜバッテリーは、このピンチで大胆不敵に3球勝負を選択できたのか。そこには大津と海野だけが共有していた確固たる「狙い」が存在していた――。
「(相手打者の反応が)こうなったらこの球でいける、というのは自分の中にイメージがありました。(2ストライクまでに)その通りになったので『あ、これはいけるな』って。言えない部分ではありますけど、確信がありました」
試合後、海野は3球で抑えられるという裏付け、そしてインコースで打ち取れるという“確信”があったことを明かす。それどころか、見逃し三振を奪うイメージまでもができた上で、サインを送っていたという。「大津がその通りに投げてくれました」と納得の表情を見せた。
1球に込められた“明日への布石”
一方、その1球を投げ込んだ大津はこう振り返った。「絶対に打たれないという確信があったみたいです。『あそこは絶対にいける。コース、ラインで勝負ができる。もしあのボールでホームランを打たれたとしても何も気にするな。全部俺が責任取る』と。投げた直後に言われました」。
さらに、この日の配球には目の前の打者を抑える以上の“意図”が隠されていた。大津は「『あした、あさってのためにも反応を見たいから、我慢して投げてほしい』と、試合の途中で言われていました」と明かす。この日の勝利だけでなく、翌日以降の戦いも見据えた海野の戦略が込められていた。その思いに、大津は見事に応えてみせた。
「インコースのサインが来ると思っていました。甘めには絶対いかないように、しっかりあのラインに強いボール、ツーシームを投げるっていう気持ちでした」
迷いなく頷き、腕が振れたのは、2人だけの準備があったからだ。この日、バッテリーのサイン交換は実にスムーズに進んだ。「サインが一致すると気持ちいいですね。リズムもテンポも上がります」と語った大津。2人の信頼関係が、この3連戦にどのような効果をもたらすのか――。様々な意図が交錯した3球。大津が手にした4勝目は、数字以上に大きな価値があるのかもしれない。
(飯田航平 / Kohei Iida)