3月に2軍降格…先発転向を打診され「わかりました」
慣れ親しんだ場所に、戻ることを決断した。「中継ぎの方が勝負をかけられる」。配置転換となったのは、又吉克樹投手だ。
ホークスに移籍して4年目となる今シーズン。オープン戦で防御率1.69と好結果を出したものの、厚い戦力層にも阻まれて開幕1軍を逃した。3月に2軍降格を告げられた時、倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)から打診されたのが先発転向だった。「わかりました」。小久保裕紀監督にも意思を伝え、新しい持ち場で1軍昇格を目指してきた。
ここまで1軍登板はなし。ウエスタン・リーグでは15試合に登板して2勝5敗、防御率3.77という成績だった。チームは首位に立ち、残り39試合。なぜこのタイミングで、再び中継ぎへの再転向を選択したのか。
オールスター前後…首脳陣と交わした自分の意見
「今、週に5試合しかないし、“渋滞”している選手も3人いる。下(2軍)にも調整登板で投げてくる投手もいて、じゃあ自分があと何回先発できるか。多分4回とかなんですよね。それで上にいけるチャンスを作れるかといったらなかなか難しい。中継ぎはどんどんつぎ込むポジションだし、そっちの方が勝負をかけられるんじゃないかなと」
1軍の日程を見ても、9月の1週目まで6連戦がない。リバン・モイネロ投手、大関友久投手、有原航平投手が10勝を挙げ小久保裕紀監督も「3本柱」と信頼を寄せている。13日に8勝目を挙げた上沢直之投手に続いて、前田悠伍投手らが順番を待っている状況だ。2軍の最終戦は、9月28日。「多分4回」のチャンスよりも、自ら考え、中継ぎへの配置転換を決断した。
首脳陣と意見を交わしたのは、オールスターの前後だったという。当然、起用を決めるのは自分ではない。「チームとしてはどうですか?」と耳を傾けた。「そこから色々な人に相談しました。松山(秀明2軍監督)さんとも話していると『中継ぎの方が勝負できるんじゃないか』と言われたので。『じゃあ、勝負させてください』と伝えました」。4年契約の最終年、毎登板に自分が持っている全てを注いできた。又吉の1球にかける思いを、首脳陣も知っているはずだ。
「『経験があって、一番そういうものが必要な場所はどこだ』って言ったらね。先発は有原、上沢とかベテランがいるけど、中継ぎって一番上でも松本(裕樹)や藤井(皓哉)じゃないですか。そういう時に『ベテランの存在が必要なんじゃないか』という話もしてもらいました」
初めて見た“中継ぎの又吉”…岩崎峻典から言われた感想
12日のくふうハヤテ戦(タマスタ筑後)では7回からマウンドへ。直球を投げ込む際には、力強い声が出る。3者凡退に抑え、後続にバトンを繋いだ。ネット裏から見守っていた岩崎峻典投手から言われたのは「投げていてカッコよく見えました」。後輩からの冗談でもあるが、それだけ躍動感があった証だ。「舐めていますよね」と笑いながらも「145キロとかでも、球の勢いも違った。体が張っているのも出力を出したから」と、手ごたえを感じていた。
春先、覚悟を決めて先発に挑戦した。自分の思いを曲げる葛藤はなかったのか、と問うと「できるのならなんでもやるというのは、もとから言ってきたから」。通算503試合に登板して173ホールド。“便利屋”であることこそ、最大の持ち味だ。今は先発調整からは外れ、リリーフ陣と試合前の時間を過ごしている。「これもいい経験になりますよ」。静かに闘志を燃やす右腕。中継ぎのリズムを取り戻すのに、きっと時間はかからない。
「人生、何があるかわからないですから。やれることを全部やって終われるように」。そう語る表情は清々しかった。自分の全てを費やしてきたマウンドで、もう1度輝きたい。
(竹村岳 / Gaku Takemura)