きっかけは何気ない会話から
打席に向かう本人が、一番驚いていた。11日の日本ハム戦(みずほPayPayドーム)に「7番・右翼」でスタメン出場した山本恵大外野手。前日10日は相手エース・伊藤大海の前に3打数無安打と悔しい結果に終わっただけに、この日の活躍に期待がかかった。そんな中で迎えた第1打席、球場に流れたのは懐かしいディスコサウンド。MAXIMIZOR(マキシマイザー)の「CAN’T UNDO THIS!!」だった。
前日まではFRUITS ZIPPERの「ぴゅあいんざわーるど」を使用していたが、なぜ急にこの曲が選ばれたのか。実は、この選曲こそが前日の悔しさを晴らす呼び水となった。鮮烈なインパクトを残した登場曲。「何が流れるか分からなくて……」。そう振り返った山本が明かしたのは、先輩たちによって開かれた“緊急会議”の様子だった。
「懐かしくて誰でも口ずさめる曲がいい」
「山川さんと話していて、『登場曲変えたらいいんじゃない?』って言われたんです。自分も変えようかなと思っていたんですけど、なかなか変えるタイミングなくて……」
ことの発端は、山川穂高内野手との何気ない会話だった。8月は打率.190に沈み、とにかくきっかけを探していた。「こだわりはないので、何でもいいです」。山本がそう答えたことで、チームメートが動き始めた。練習後のロッカーには山川を中心とした野手の先輩たちが集まった。「これがいいじゃん!」――。突然始まったのは“選曲会議”だった。
「懐かしくて誰でも口ずさめる曲がいい」といった声が聞こえてくる中、山本は「自分は知らないまま打席に入りたいので、もう任せます」と伝え、選曲を完全に委ねた。「自分がご飯に行ってる間に決まっていたみたいです」。
感謝の一打…うかがえる雰囲気
そして迎えた第1打席。「そうきたか、と思いました」。打席に向かう中で流れてきた曲に、山本も思わず驚いたという。この打席は三振に倒れたが、2打席目では先輩たちの粋な計らいを力に変え、左前打をマーク。逆転勝利のきっかけを作ってみせた。
試合後、山本はすぐに山川の元へ向かい、「山川さんのおかげでヒットが打てました」と感謝を伝えたという。チームはこの日、3-1で日本ハムに勝利し、大事な首位攻防戦を3戦全勝。ゲーム差を4に広げ、優勝に向けてさらなる勢いをつけた。
「登場曲が流れた瞬間に“この選手だ”ってわかりますよね。きょうだって、(中村)晃さんの時は球場が沸いていたので。だから重要ですよね」。流れる登場曲が球場を盛り上げ、その一打を期待させる。山本もファンに愛される、そんな打者へと成長していく。
(飯田航平 / Kohei Iida)