ピンチの9回、3度マウンドに足を運んだ中村晃
安打こそ出なかったが、“精神的支柱”の存在感は計り知れなかった。13日の楽天戦(楽天モバイルパーク)。5-0と快勝ムードで迎えた9回に、思わぬ落とし穴が待っていた。
ここまで防御率0点台を誇っていた杉山一樹投手がまさかの3失点。なおも2死一、三塁で一発が出ればサヨナラの場面。最後は辰己を空振り三振に仕留め、薄氷の勝利をもぎ取った。
重苦しい空気が漂う中、際立ったのが中村晃外野手の行動だった。わずか1イニングの間に3度もマウンドに歩み寄り、杉山に声をかけた。倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)がベンチを出たタイミングを合わせると4度。なぜ何度も念入りに声をかけたのか――。
「コーチも1回行ってしまったので。誰かが行かないといけないと思いましたし、ずっとセーブシチュエーションで投げていたピッチャーなので、難しさもあると思いました。少しでも間を取れればいいかなって」
この日の先発は、今季初登板の前田悠伍投手。6回無失点の快投で初勝利の権利を手にしていた。チームは3連敗中だったこともあり、小久保裕紀監督は7回に藤井皓哉投手、8回に松本裕樹投手、9回に杉山と温存していた勝ちパターンを惜しみなく注ぎ込んだ。
常に接戦でマウンドに上がってきた守護神にとって、セーフティリードの方が難しい場面もある。5点差で登板した杉山は2安打と死球で無死満塁のピンチを招き、倉野コーチがマウンドに向かった後に、ボイトに左前適時打を浴びた。
直後に中村が動いた。杉山に声をかけると、その後も2度マウンドへ足を運んだ。「まだ点差もありましたし、『1個ずつ取っていこう』と言いました。慌てないように、という感じですね」。かけた言葉は特別なものではなかったが、普段とは違う杉山の雰囲気を察していたからこそ、少しでも間を取って、本来の投球を取り戻してほしかった。
チームは3連敗…ベンチから見ていたもどかしさ
前日12日までチームは3連敗。33イニング連続無得点と打線が沈黙していた。中村は11日、12日の楽天戦でスタメンから外れ出場機会はなかった。ベンチから見守る立場だった。
「惜しいとこまで行くけど、なかなか点が入らないなって。こういうことは年に何回かあると思うので。それを打開するのはやっぱり選手でしかないので」
3試合ぶりのスタメン復帰となったこの日、安打こそなかったが、5回に4点目となる犠飛を放ち、しぶとく打点を挙げた。「きょうは若い選手も頑張りましたし。僕は打てなかったですけど。勝ってよかったなと。あそこは1点取れば大きい場面だったので」と安堵した。
杉山はかつて、中村のことを「精神的支柱」と表現していた。「記憶に残るような助けをしてくれて。守備もそうですし、ここで点が欲しい、という時に晃さんが取ってくれるんですよね」。
連敗を3で止め、未来のホークスを担う19歳がプロ初勝利を手にした日。中村のふるまいは、まさに杉山の言葉通り、“記憶に残る”サポートだった。
(川村虎大 / Kodai Kawamura)