「余裕を持つほど死んでいく」 数年前は弱気に…杉山一樹はなぜ“激変”を遂げたのか?

9日のオリックス戦に登板した杉山一樹【写真:栗木一考】
9日のオリックス戦に登板した杉山一樹【写真:栗木一考】

ブルペンの柱として君臨「いつも思うのはチームのため」

 かつては、自分すら信じられなかった。“弱気”だった男は今、使命を背負ってマウンドに立っている。今季7年目を迎えた杉山一樹投手はリーグトップの38試合に登板して2勝2敗10セーブ、防御率0.96という圧倒的な成績でブルペンを支えている。

 プロ4年目の2022年を終えた時点で、通算38試合に登板し、わずか3勝。88回1/3を投げて68与四球と、制球面に明確な課題を抱えていた。2023年は右肘の故障もあり、1軍登板なしに終わった。「申し訳なかったですし、僕がチャンスをもらったばかりに他の選手のチャンスも奪われて。なのに結果も出せていなかったので……」。あまりにも強い自責の念は、体調にも現れる。時には精神科にも足を運ぶなど、プレーどころではない状態だった。

 苦境を乗り越えた右腕は今、事実上のクローザーを託されている。ロベルト・オスナ投手が不在の中で、10セーブはチームトップだ。「僕がいつも思っているのは、チームのためということです。本当にそれだけ」。多くのファンが、数年前まで苦しみ抜いていた杉山の姿を知っているはず。なぜここまで、大きな変化を遂げることができたのか。

「めちゃくちゃ極端なんですけど、中継ぎを直訴したことでクビになる覚悟があった。悔いのない1日を過ごしてきましたし、『あした、来年はこうしよう』っていう人には負けたくないなと。それくらい腹を括っていたので。そうなると自分の欲よりも誰かのためと思えるし、誰かのためと思うなら、やっぱりチームが優勝しないといけない。それでファンの方々に喜んでもらえるので、そういうふうに思うようになったのかなと」

 2024年2月、春季キャンプで中継ぎ起用を首脳陣に直訴した。「ダメならクビ」だという覚悟が、日々の行動も変えた。結果的にチームトップタイとなる50試合に登板。「余裕を持てば持つほど死んでいくと思います。後退していきます」。確固たるポジションをブルペンの中に築き上げても、根底にある気持ちは何も変わらない。強烈な危機感こそ、杉山一樹の原動力だ。

藤井、上沢と重ねる自分の姿「そういう人たちは…」

 大きな挫折を味わった人間は、強い。右腕が身をもって学んだことだ。チームメートでは藤井皓哉投手が2020年オフに広島から戦力外通告を受けた。上沢直之投手も米国に挑戦し、1年でNPB復帰を選択した。思うようなキャリアを歩めず、もう1度這い上がろうとする同僚の姿は自分にも重なる。「そういう人たちは、やっぱり過ごし方がいいんです。藤井さんも『探究心がないとダメ』と言っていましたし。逆に何気なく年数を重ねている人に深みは出ないと思う」。

 今月5日の西武戦(みずほPayPayドーム)では1点差の9回に登板し、3者連続三振で締めくくった。打線が4点を奪い、上沢から藤井、松本裕樹投手のリレーでたどり着いた最終回だ。自らの価値観を「勝たなきゃ意味がない。0か100か」と表現する右腕は今、ナインの思いを背負ってマウンドに上がっている。

「頑張って点を取ってくれるわけじゃないですか。僕たちが簡単に点を与えていたら、野手の人たちもキツいはず。それで負けて『あしたも頑張ろう』ってなるなら、そもそも(この世界で)勝負しない方がいいと思います。やるなら勝った方がいいに決まっているので」

自らに言い聞かせる…「野球をしている時間は悔いがないように」

 数年前までの自分を振り返れば「発言と行動が全然合っていなかった。理想ばかりを言っていたので」という。右腕が自らに言い聞かせるのは「丁寧に過ごすこと。野球をしている時間は悔いがないようにしたいんです」。ルーティンを継続してきたことで、確かな技術が身についてきた。飛躍を遂げている今シーズンも、危機感が原動力であることは何も変わらない。

「僕は勝つことにしつこいので。勝たないと、そもそも意味がないです」。背番号40に対して、野手から信頼の声も聞こえるようになってきた。信じられなかった弱気な自分は、もうどこにもいない。

(竹村岳 / Gaku Takemura)