中村晃の復調を物語るリーグ最低の「35.9%」 昨季とまるで別人の姿…データが示す“若返り”

中村晃【写真:古川剛伊】
中村晃【写真:古川剛伊】

ホークスの「V字回復」に貢献する35歳

 シーズン当初の苦境を乗り越え、交流戦優勝を果たしたホークス。首位・日本ハムとのゲーム差もわずかと、ようやく本来の姿を取り戻してきた印象だ。チームを上昇気流に乗せた「立役者」として、中村晃外野手の名前を思い浮かべるファンも多いのではないだろうか。

 昨季は山川穂高内野手が加入した影響でスタメンを外れることも増え、代打での出場が中心となった中村。一方で今季は主力の相次ぐ故障や山川の不調もあり、先発出場が増加している。5月後半からは4番を打つ試合も多くなった。

 リーグ平均を100とした場合の1打席あたりの打撃傑出度を表す「wRC+」で見ると、今季ここまでの中村の値は98。交流戦後半にやや調子を落としたことで平均を下回ってはいる。それでも昨季の値が68であることを考えると、復調は明らかだ。今季の中村は昨季と何が違うのだろうか。

 要因の1つは出場機会数の増加にあるかもしれない。前述したように、昨季の中村は代打中心。それに対し、今季はスタメンでの出場が多くなっている。代打でもスタメンでも打席に立てば同じなのだから、パフォーマンスに大きな変化は起こらないように想像してしまう。しかし、起用法の違いが打者心理に影響を与えていた様子は、データからうかがい知ることができる。

 影響が出ていたと思われるのは“振るか振らないか”、スイングの判断の部分だ。中村は元々スイングを積極的にする打者ではなく、極めて慎重なタイプだ。投球に対するスイング率はNPB平均が47%程度であるのに対し、中村は例年40%以下。低い年には35.9%を記録していた。じっくりとボール球を見極め、甘い球だけをスイングする。それが「レフティースナイパー」の打撃アプローチである。

昨季から6.2%減少…起用法の違いが与える影響

 しかし、昨季は様子が違った。スイング率は42.1%にまで上昇。これでもまだNPB平均に比べれば低いが、中村にしてはかなり積極的にスイングを仕掛けていた。昨季の起用の大半は代打。スタメン出場と異なり、1打席勝負である。悠長に投球を見極める暇はなく、積極的にスイングして投球のタイミングを測る。もしかすると、そういった意識がこの積極的なアプローチに表れていたのかもしれない。

 そんな中村だが、今季のスイング率は35.9%。昨季に比べると、かなりスイングの頻度が減っている。これは中村のキャリアの中では2015年以来の低い値で、実は今季のNPBで規定打席に到達した打者41人の中で最も低い。1打席勝負の昨季とは異なり、安定した出場機会を得られることで、本来の「冷静に見極めるスタイル」を取り戻し、それが打撃の復調につながっているのかもしれない。

 復調の秘訣は見極めだけではない。中村といえば数少ないスイングながら、甘い球に絞って一振りで仕留める打撃が持ち味だ。こうしたスタイルから、ファンは中村のことを“レフティースナイパー”と呼ぶ。

 しかし、近年の中村は“らしからぬ場面”が目立っていた。甘い球を仕留めきれていなかったのだ。ストライクゾーンの中心に近いエリアを“甘い球”と定義。エリア内の限定した打率を算出すると、2023年は.254、2024年は.294と、打ち頃のボールに対しても打率3割をクリアできていなかった。

過去4年で最高の「19.1%」が示す好調ぶり

 一方で、今季はこのエリア内打率が.316まで上昇。長打率で見てみても、.320、.333と推移していた過去2年に比べて今季は.386と、一気に上げてきている。今季の中村は甘い球を確実に仕留めているのだ。

 スイング後についても注目してみよう。以下のグラフは中村が甘い球をスイングしたときの結果内訳だ。結果は空振り+ファウル、凡打、安打の3種類に分けることができる。

 まず今季のグラフで目立つのは、やはり安打の割合が大きいことだ。今季は甘い球をスイングした際に19.1%の割合で安打になっている。過去4年のデータを見ると高くても17.8%、過去2年は16%前後にとどまっていたことを考えると、今季の中村が甘い球を高確率で安打にしている様子がわかる。

 なぜ安打の割合が増えたかというと、打ち損じが減ったからだ。昨季のスイング結果で空振り+ファウルは45.4%あった。つまり前にボールを飛ばせず、一振りで仕留めきれていなかったことがわかる。スナイパーらしからぬ打撃である。しかし、今季はその割合が39.9%まで低下。その分、打球が前に飛ぶことも増え、安打の割合も増えているというわけだ。

 今季の中村の打撃スタイルをまとめると、投手の誘い球には乗らず慎重にボールを選び、そこでやってきた甘い球を打ち損じずに一振りで仕留める。かつて安打を量産していたころの姿である。中村は今年11月には36歳を迎え、ベテランの領域に足を踏み入れつつある。しかし打撃をデータで詳しく見ると、スナイパーとしての姿を取り戻し、若返っているようにも思えてくる。一振りで仕留めるスタイルを維持できれば、今後の優勝争いの中でもその存在は頼りになるはずだ。

※2025年のデータは6月26日時点

DELTA http://deltagraphs.co.jp/
 2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する「1.02 Essence of Baseball」の運営、メールマガジン「1.02 Weekly Report」などを通じ野球界への提言を行っている。(https://1point02.jp/)も運営する。