首脳陣への意思表示「いいえ」 強がりじゃない…5回降板に語った前田純の本音

10日のオリックス戦に先発した前田純【写真:栗木一孝】
10日のオリックス戦に先発した前田純【写真:栗木一孝】

内に秘める強気「5イニングで交代って…」

 10日のオリックス戦(京セラドーム)、勝敗はつかなかったが5回1失点と試合を作った前田純投手。マウンドを降りた左腕に、小久保裕紀監督は労いの言葉をかけた。「最後に振り絞ったな」。だが、前田純の口から出たのは意外な返答だった。「いいえ」。指揮官は「ウソだと思いますけど」と冗談混じりに話したが、そこにはマウンド上で感じていた偽らざる本音が隠されていた。

 5回無死、若月に左翼席へのソロアーチを浴びた。その後、この日最速の144キロをマークして後続を断った姿が、首脳陣の目には最後の力を振り絞っているように映った。しかし、前田純自身は異なる感覚を抱いていたという。「あ、代わるんだ」――。左腕が内に秘めた素直な思いを明かした。

「自分の中ではリズムに乗ってきたというか。だから『あ、代わるんだ』って。それが正直な思いでした。ホームランを打たれて、ここは抑えないといけないと思って、力を入れたわけではなくて。指のかかり的には失投だったんですけど、フォームのリズムがいい感じになっていたんです」

 本塁打こそ打たれたものの、自分自身の中では、新たな感覚が芽生えていた。悔しさによって、力むこともない。「自分の中でのギアが上がったっていうか。『あ、このリズムいい』って変わっていったような感じだったんで」。マウンドで感じていたものは調子が良い時の感覚。「体に馴染んできたって感じだったんです」と表現する。

 当然、優先されるものはチームの勝利。試合中は球数を意識していなかったというが「89球って言われて『え、そんなに投げていたんだ』っていうのはありました」と率直な思いを振り返る。「球数がもっと少なかったら、もうちょっといけていたかもしれないですね…。ちょっと間隔を掴むのが遅かったです」。接戦という状況も降板の要因にはあっただろうが、6回以降もマウンドを託そうと思わせられなかったことも事実。左腕は悔しさをにじませた。球数が増えたことで落ちた球威やキレは今後の反省として活かしていく。

先発投手の気概…「9回まで投げるという目標が」

 先発投手として、早い展開での降板はやはり本意ではない。「5回で交代って、悔しいんですよね。あまり貢献できている感じがしないんで」。初めて開幕ローテーションに入り、一戦一戦、自分の役割を果たすことに必死。目指すのはさらに長いイニングだ。「もっと言えば9回とか投げたいんです。次の試合はもっとイニングを投げれるように、ちょっと考えていることがあります」。内容を明かすことはなかったが、左腕の胸には秘めるものがある。

 多くのイニングを投げたいという思いは、先発を務める上で不可欠な要素だ。「そういう気持ちがなければ、先発はやらない方がいいと思う。完投するんだっていう気持ちで(マウンドに)入ってこないとダメですよね。(そうでなければ)いいピッチャーになるとは思えない。先発としては、やっぱり1回から9回まで投げるっていう目標が最初に来ないと、頼りないですよね」と倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)もその重要性を説く。

 マウンドを降りたくない、まだ投げられるんだ――。その気概は前田純から伝わるからこそ、次への期待が高まる。「残った課題も当然ありますけど、今は比較的いい状態にはあるので、それをちゃんと維持できるように。技術的にどうこうっていうのは今はないですね」と倉野コーチは評価する。実力で掴んでいるローテーションの座。信頼して託している1枠、次こそ白星に繋げてもらいたい。オリックス戦で前田純の負けん気も見えたことが、首脳陣にとっても収穫だった。

 5回での降板とはなったが、そこで掴んだ好感覚を手に、次回の登板に向けた準備を進めている。前田純の「いいえ」の一言は、現状に満足せず、常に先を見据えるからこそ出た言葉。それは単なる強がりではなく、確かな手応えと成長を感じた左腕の、偽らざる意思表示だったのかもしれない。

(飯田航平 / Kohei Iida)