広報泣かせの選手時代「嫌や嫌やって」 ドラ1の転身…貫く“絶対”のルール

鍬原拓也広報【写真:竹村岳】
鍬原拓也広報【写真:竹村岳】

開幕直後は反省も「ダメだったのかなとか」

 第2の人生がスタートし、数か月が経った。頼れる先輩にも支えられながら日々、奮闘しているところだ。ソフトバンクの鍬原拓也広報は、裏方さんに転身して1年目のシーズン。「最初、全然勝てなくて僕のせいなのかなと思うくらい。キャンプから選手の取材スケジュールを管理、調整してるじゃないですか、それがダメだったのかなとか、テツ(西田哲朗広報)さんとは話していました」と苦笑いするが、チームも少しずつ波に乗ってきた。表情も晴れやかだ。

 1996年3月生まれ。チーム内では、周東佑京内野手らと同学年にあたる世代だ。2017年ドラフト1位で中大から巨人に入団。2022年にはシーズン49試合登板を果たすなど、豊富な経験を積んだ。ホークスの育成選手として昨シーズンを過ごし、オフに現役を引退。今はジャージーやスーツを着て、選手たちの「露出」に携わっている。

 もっとも「大変」だと語るのが、スケジュールの管理。選手にとって当然、大切なのは野球のために時間を確保すること。合間を狙って取材をはめ込んでいくことが、鍬原広報の仕事の1つだ。「“ナイターデー”とかはやっぱり難しいですよね。選手の状態によっては取材を入れない日も作る必要があるので、そこが今は難しいところです」。基本的に毎日出場チャンスがある野手と、投手でも生活リズムは少し異なる。だからこそ、日々のコミュニケーションは欠かさない。

「それは絶対です。僕も広報として、選手に取材を受けてもらおうと思ったら、全く喋らない人にいきなり『受けてください』って言われてもね。やっぱりちょっと気が引けるじゃないですか。常に練習中、コミュニケーションを取って、取材を受けてもらいやすい環境を作ることが大事かなと」

 奈良県出身で、口調はいつも関西弁。「僕、しゃべらなかったら体調不良を疑われます。それくらい口数多いです」と、もとから人の懐にスッと入る能力には長けている。昨シーズンも前田悠伍投手をはじめ、多くの選手と交流を深めた。裏方さんになったことで「今は一歩引いている感じです。やっぱり投手の方が話せる気がしますので、野手とは特にコミュニケーションを取るようにしています。野手の練習とか、これまで見ることもなかなかなかったので」と毎日が新鮮だ。

西田哲朗広報の存在は「めちゃくちゃデカいです」

 巨人にドラフト1位で入団。自分自身もさまざまな取材を受けてきた。「(広報になるなんて)全く考えていなかったです。僕の選手時代は“広報泣かせ”だったと思いますよ。『嫌や嫌や』って言っていたので」と笑って振り返る。今はメディアと選手の間に入る立場。「気持ちもわかるようになってきました。マスコミの方も、こういうのが撮りたい、聞きたいっていうのが。でももちろん、選手の気持ちもあるわけですから、中立としてどうやってうまく立ち回るかが大事かなと」。

 日課の1つが、露出のチェック。どんな映像や記事が世に出ているのか、細かく目を通すことから一日が始まる。「僕らも選手を取り上げてほしいし、その中で関東と福岡で違ったりもするじゃないですか」。選手だけではなく、メディアとのコミュニケーションも当然大切だ。「九州の方々は本当にありがたいです。知名度を上げて、関西や関東でも扱ってもらえるように僕たちも頑張らないといけないですよね」と、ホークスの名をどこまでも広く、届けていきたい。

 背中を見ているのが、西田広報の存在だ。現役を引退して裏方さんに転身するという経歴は同じ。広報5年目になる先輩は、今季から「チーフ」の肩書きを背負うようになった。「めちゃくちゃデカいです」という存在には、いつも助けてもらっている。だからこそ頼るのは“ここぞという時”だけだ。

「なんでもかんでも聞くんじゃなくて、テツさんがやっていることを見て、自分なりに動くようにしています。やってみて、わからないことがあれば聞きますけど。基本的にはあまり聞かないように自分の中ではしています。それはテツさんからも言われて『広報っていうのはその場で対応することも大切』だと。選択したことが正しいかどうか(後で)わかると思うから。なんでも自分で判断できるように、失敗してもいいから失敗も経験してやっていけばいい、と言われているので。あんまり聞かないようにしているつもりではいます」

 選手の素顔や魅力が、少しでも知れ渡るように。裏方さんとして支え、努力していく。「仕事としてやっているところも当然あるので。選手の気持ちはもちろん大事ですけど、メディアの方々の気持ちもあると思います。選手に強くお願いすることもありますよ。『ここは大事にしたいから』と、僕の思いも伝えるようにしています」。実はチームが昨オフに行っていた大きな“補強”。鍬原広報の存在が必ず、これからホークスの力になる。

(竹村岳 / Gaku Takemura)