“ラストイヤー”に「勝てずにすみません」 柳田悠岐が口にした謝罪…工藤公康氏が語る素顔

笑顔を見せる柳田悠岐(左)、工藤公康監督(2017年)【写真提供:産経新聞社】
笑顔を見せる柳田悠岐(左)、工藤公康監督(2017年)【写真提供:産経新聞社】

ホークス元監督の工藤公康氏が鷹フルの単独インタビューに登場

 指揮を執った7年間でホークスを3度のリーグ優勝、5度の日本一に導いた工藤公康氏が鷹フルの単独インタビューに登場です。第1回は“工藤ホークス”で押しも押されもせぬ主軸として活躍した柳田悠岐外野手について語っていただきました。監督最終年となった2021年、真剣な表情の主砲から伝えられた言葉とは――。

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 工藤氏が監督に就任した2015年、柳田は打率.363、34本塁打、99打点、32盗塁と圧倒的な成績をマークし、トリプルスリーを達成。ホークスのリーグ優勝、日本一に大きく貢献した。工藤氏が指揮を執った7年間の通算で957安打、183本塁打を記録。首位打者2回、最多安打1回、最高出塁率4回と数多くのタイトルを獲得するなど、“球界最強打者”としてチームを力強くけん引した。

「彼がいたことで、彼がどれだけ打ってくれたことでホークスが勝ってきたかということですよね」。そう語るほど、絶対の信頼を寄せていた。退任が決まった後、柳田の口からこぼれたのは、“謝罪”だったという。

「自分がどうこうよりも、常に『勝ちたい』という気持ちを持ってくれていた選手。怪我で離脱したシーズンは『自分が試合に出られず、チームに迷惑をかけてすみませんでした』と言われたこともありました。最後の年(2021年)も『自分が打てないから勝てずにすみません』と伝えられました」

 普段の天真爛漫な“ギータ”の姿はどこにもなかった。工藤氏の前で真剣な表情を浮かべていたのは、紛れもなく主砲としての責任感を胸に秘めた“柳田悠岐”だった。指揮官としての最後の仕事は、「謝罪を受け取らないこと」だった。

「これまでどれだけチームのために、優勝のために頑張ってきてくれたんだ。そんな選手がたった1年間、成績が悪いだけですみませんと謝る必要は全くない。とにかく自分のできることを毎日、頑張ってくれればいいんだ。その結果が良くても悪くても、お前のせいには絶対にしない」

若手に向ける優しいまなざし「こいつ頑張っていますよ」

 工藤氏も言葉を飾ることなく、本心をぶつけた。「彼ほどの選手でも調子の悪い時はあります。その時に打てないからといって『何をやっているんだ』と言うわけがないです。いくら3番だから、4番だから責任があるといっても、それは1人の選手が負うべきものではないですから。試合に勝てなければ、それは全て監督の責任です」。

 柳田に見たのは、勝利への強い執念だけではなかった。「実際には色々と考えられる選手です。普段はそう見えないように本人が振舞っているだけだと思うんですけど」。工藤氏が明かしたのは、意外な素顔だった。

「若い選手について『こいつは結構頑張っていますよ』と言ってくることも多かったです。『自主トレからこれだけやってきて』といった話をしてきて、そうなんだと思わされることもありました。頑張っている仲間と一緒にシーズンを乗り越えて、優勝を喜びたいという意識がすごく強い。そんな選手たちと野球ができて楽しい、嬉しい、一緒に勝ちたいと。野球少年のような思いを感じることもありました」

 現役時代、多くのスター選手とともにプレーしてきた。柳田については「スターに見えないスター」と称する。「『僕なんか大したことないですよ』と常に言っていますから。全然、自分を飾らないですよね」。7年間の監督生活を常に支えてくれた主砲を見る目は、どこまでも優しかった。

(長濱幸治 / Kouji Nagahama)