避けたい結果思考…意図的に上げる再現性
「メンタルは心ではなく頭。頭の使い方は技術なんですよね」
こう語るのは、今季からチームに加わった伴元裕メンタルパフォーマンスコーチだ。選手たちのパフォーマンスを安定、向上させるために独自の視点でアプローチする伴コーチが、特に“トップクラス”だと評するのが山川穂高内野手のメンタルコントロール術だ。
「頭の使い方のスキルをちゃんと学べれば、より良いパフォーマンスを出せるという考え方です。山川選手はそのメンタルのスキルがトップクラスですね。彼の言葉だと、ルーティンのことを『作業』って言ってるんですけど、作業を全部一定させているんですよ」
伴コーチは、メンタルの重要性を説く上で“強い”や“弱い”といった精神論とは一線を画す。一方で、開幕から3連敗が2回続いたホークスの現状や、苦しい状況下で多くの選手が「陥りやすい状態」についても目を凝らしてグラウンドを駆け回る。選手の状態を見極め、アドバイスによってパフォーマンス向上につなげている。
「メンタルって性質や性格みたいに捉えられがちですけど、そうじゃなくて、頭の使い方。要は技術なんですよね。その頭の使い方のスキルをちゃんと学べれば、より良いパフォーマンスを出せる」
前述したとおり、好例として挙げるのが山川だ。「山川選手はそのメンタルのスキルがトップクラスですね。ダグアウトでどういう情報を入れて、ネクストで何をして、打席でのルーティン。何のために時間を使うのか。それはスキルなんです」。伴コーチは、打席で最高のパフォーマンスを発揮するための“準備スキル”として、山川の取り組みを高く評価する。
若手選手にも好影響…無意識から意図的に
一方で若手選手や、まだ準備のルーティンが確立されていない選手に対しては、個別にアプローチも行う。キャンプ中に大山凌投手に声をかけたのもその一環だ。「『どういう意識や、どういう状態で投げていた?』って言われて。そこからそういうことを考えるようになりました」と、大山自身もルーティンを見つめ直すきっかけをもらい、パフォーマンスが良い時に行っていた「無意識」の行動を「意識化」する作業を進めることになった。
「無意識だと再現性がないんですよ。意識的に上げることで、『あ、これはちゃんとやっとかなきゃな』ということを実践すると、再現性が出てくるんです」。伴コーチが選手に伝えているものは、結果そのものを求めることではなく、良い結果の確率を上げられるプレーの再現性を高めることだ。このアプローチによって、大山も実感するものがあるという。
「オープン戦の時からずっと良い感じのマインドでマウンドに上がれているんです。自分の決めたルーティンではなかったけど、調子がいい時に無意識にやっていたことを、伴さんと面談して探しました。今はいろんなところにバランス良く意識を保てている状態ができていて、自分ではそれが合っていると思います。投球の中で、いいリズムを生んでると思います」
大山自身の意識の中で、投げると決めた瞬間はミットだけに意識を向けるのではなく、バッターボックス付近までをぼんやりと見ている状態だったと気づくことができた。その状態を作り出すための準備として、三塁側スタンドの方に目線をやり、その流れで捕手のサインを見るといった動作がある。それを意識的に行うことで、良いパフォーマンスを出せる状態をうまく作り出せることに手応えを感じている。
敗戦が続いた時に選手が陥りやすい“状態”
今季のホークスは開幕3連敗からのスタートとなった。そのような状態の時に気をつけなければならないことがあると、伴コーチは注意を払う。「負け続けている時って結果を出さなきゃいけないという気持ちがより強くなるんです」。本来であれば、結果に繋げるために選手自身がやるべきことに集中しなければならないのだが、それがおろそかになると、結果ばかりに意識が向きやすくなるという。
伴コーチが投手陣と野手陣の間を忙しく動き回っていたのは、この状態に陥りそうな選手がいたからでもある。状況に応じて選手個々の思考を読み取り、最適な「頭の使い方」を促す。「伴」という言葉には“連れ立っていく”という意味がある。選手に寄り添い、共に歩む伴コーチの存在は、長いシーズンを戦い続けるチームにとって、大きな武器となる。
(飯田航平 / Kohei Iida)