ドラ3・安徳駿はなぜスロー調整だった? 監督に降板直訴…指名3日後に激変した“運命”

安徳駿【写真:竹村岳】
安徳駿【写真:竹村岳】

スロー調整となった決定的1球「急に来たんです」

 新人右腕はなぜ、ここまでスロー調整だったのか。運命が交差したのは“ドラフト3日後”だ。ソフトバンクの安徳駿投手が12日、四国IL高知との3軍戦で実戦登板を果たす。「自分は遅れてからスタートして、体作りをやってきました。怪我も治って、ゲームに向けてバッターとの感覚だったり、コースに投げることに取り組んでいます」と近況を語った。

 福岡県久留米市出身。久留米商から富士大を経て、昨年のドラフト会議で3位指名を受けた。大学での4年間で、球速は152キロに到達。待望の復帰マウンドに向けて「長らくお待たせしたんですけど、しっかり投げられるように頑張ります。応援よろしくお願いします」と、うずうずしたような表情だった。

 1月の新人合同自主トレから、一部別メニュー調整。慎重にステップを踏んできたのは、右肘の違和感が原因だった。「急に来たんです……」。今から半年前、決定的瞬間を振り返る。昨年10月24日に行われたドラフト会議の、わずか3日後の出来事だ。

「東北大会の決勝があったんです。その時、調子もよくて、フォークを投げた時に肘がピキってなりました……。若干、違和感があるくらいだったんですけど、次の日の朝くらいに『痛っ』みたいな。そこから投げていませんでした」

 2024年10月27日。勝てば秋の神宮大会進出が決まるという一戦で、仙台大と対戦した。6回から登板して、3回無失点。必死の投球を見せたが、9回のマウンドに上がることはできなかった。「最後まで投げ切りたかったんですけど、その前のリーグ戦中に、同級生が無理して投げて肘の靭帯を切ってトミー・ジョン(手術を)したっていうのもありました。それで『やめておこう』と思って、違和感くらいだったんですけど、監督に言って、マウンドを降りました」。無念ではあったものの、勇気ある降板だったのは間違いない。

「帰りのバスでももう肘が伸びなくなってきていました。『やばいかもな』と思っていて、次の日に朝起きたらもうこれ以上伸びない、みたいな。少し曲げるのも痛くて、終わったと思いましたね。すぐに病院行きました」

春季キャンプでは同期の姿に焦りも「抑えてるわ」

 自分の体において、張りが出やすい部分は理解していた。「フォークは余計に腕の振りが強い。ケア不足で疲労もあったんだと思います」と、反省は胸に深く刻んだ。ドラフトから3日後だったことも「前だったらドラフト指名されない可能性もあるので。ちょっとホッとしたのもあるかもしれません。チームには迷惑をかけてしまいましたけど、今はプラスに捉えています」と糧に変えてきた。遅れは取ってしまったが、ここからどんどん取り戻していくつもりだ。

 昨年12月の入団会見も、まだノースロー調整をしていた時。プロ野球選手にとって貴重な晴れ舞台だったが「軽く投げるのも痛いくらいの時期だったので。大丈夫かなと思いながらの入団会見でした」と今だから明かせる。年が明け、春季キャンプでは庄子雄大内野手がA組に抜擢。岩崎峻典投手も、途中からA組に合流して結果を残していた。「岩崎とかめっちゃよかったじゃないですか。同じピッチャーですし『抑えてるわ』って思いながら、でも自分は投げられないので」。焦る気持ちも抑えながら、体作りと向き合ってきた。

 半年近く、試合から遠ざかった。久々のマウンドは当然、楽しみしかない。「(リハビリ期間中は)だいぶ前向きでしたね。トミー・ジョンするほどひどくないっていうのもあって、これくらいなら大丈夫だとトレーナーさんにも言ってもらっていたので、頑張れていたと思います」。力強い直球と、優しい笑顔が代名詞。安徳駿が、プロ野球選手としての第一歩を踏み出す。

(竹村岳 / Gaku Takemura)