試合中に「絶対するな」 2軍降格でロッカーにぽつり…谷川原健太が授かった“助言”

谷川原健太【写真:竹村岳】
谷川原健太【写真:竹村岳】

小久保監督「細川コーチに指導してもらおうと」

 首脳陣から、明確な課題を突きつけられた。ファームに来てすぐに「ハッとさせられた」言葉があった。ソフトバンクの谷川原健太捕手が7日に出場選手登録を抹消され、翌8日から2軍に合流した。いきなり金言を授けてくれたのは、細川亨2軍バッテリーコーチだ。

 今季がプロ10年目。3月28日、ロッテ戦では「9番・捕手」で初の開幕マスクも経験した。結果的に3度のスタメン起用があったものの、白星に導くことはできず。開幕してわずか8試合で再調整が決まった。打撃面でも8打席に立ち無安打。3四球を記録したものの、Hランプは灯せなかった。

 小久保裕紀監督は「ブロックやスローイングはキャンプに比べて、上達しました」と認める。その上で「キャッチャーとしてピッチャーのいいものを引き出すのは配球だけではないので。そういったところを含め、細川コーチに指導してもらおうと思います」と課題を明かした。2軍に合流した8日、いきなり谷川原は細川コーチから重い助言を授かっていた。「反省するな」――。

「『試合中に反省するな。試合が終わった後に反省しろ』と言われました。最後まで戦ってくれている野手もいるし、ピッチャーだって諦めていないから。絶対試合中に反省するな、と。もっといろいろ言われたんですけど、一番大きかったのは、その言葉でした」

 3月28日の開幕戦では有原航平投手とバッテリーを組み、5回を終えた時点でパーフェクト。しかし、6回に6点を失って主導権を手渡した。4月4日の西武戦でも先発マスクで、有原とともに勝利を目指したが4回に6失点を喫した。普段は明るいキャラクターの持ち主ではあるが、自分でも認めてしまうほど、試合中に落ち込んでいた。「(細川コーチの)その言葉でハッとさせられましたし、改めてそうだなと思いました」。1軍を経験したことで、新たな気づきを得た。

 助言を送った細川コーチは、どんな思いだったのか。現役時代は4球団を渡り歩き、通算1428試合に出場。西武、ホークスで日本一を達成するなど経験豊富な男も、たくさんの失敗を味わってきた。

細川コーチが語る“布石”…谷川原を見て感じたこと

「試合は進むわけですし、キャッチャーはすることがいっぱいある。へこんだりしている暇はないから、反省は終わってからやりましょう、と。野球はミスのスポーツですし、ど真ん中に投げても打たれない時もある。相手に結果が出た、ヒットが出たからそれをミスだと捉えたり、『ダメだ』と思うのではない。それはあくまでも布石ですから。ベンチで黙りこくっていると、雰囲気もよくないし。応援もする、打つ時は打つって、切り替えができるように」

 2軍のバッテリーコーチを請け負っている中で、1軍でマスクを被る谷川原の姿は見ていたという。「特にそういうことを感じました。切り替えというところが、難しそうだなと」。多くの言葉を交わした中でも、必死に前を向こうとする印象を受け「正捕手を目指すのなら、落ち込んでいる暇はない。試合に出て、結果を出して、経験をさせてあげないといけない」と今後を見据えた。「わざとね、失敗をさせるのも」とすら言うのだから、支えてくれる存在はどこまでも頼もしい。

 2軍降格を告げられたのは、6日の試合後。帰路に就いたのは、他の選手よりも明らかに遅かった。「荷物の整理もあったんですけど、ロッカーに座っていました」。その場にとどまり、自問自答する時間だった。昨シーズンを終えた時点で、通算195試合の出場。1軍の空気も味わってきたが、マスク越しに見る景色は特別で「勝ちが全てなので、重みも違いました。アウト1つ取るのも難しいですし」。必ず糧にして、成長する。この決意だけは絶対に動かさない。

「僕たちは感じていることでプレーしていく。そこは間違っていても、合っていたとしても、難しさはありました。キャッチャーは真後ろから見ているから、真後ろにしかわからないことがある。もっと自信を持ってプレーできたらよかったです。でも打たれたのも、2軍に落ちたのも事実。ここでくよくよしている暇はない。細川さんをはじめ、いろんな人に支えてもらっている。もう1回、1軍の舞台に上がりたいです」

 再スタートを切ることになった。気持ちを押し殺しながら、最後に力強く、こう言った。「2度とこんな悔しい思いをしないように」。谷川原の目に、熱い闘志が宿っていた。

(竹村岳 / Gaku Takemura)