察した2軍降格も…驚いた監督室での“提案” 又吉克樹が覚悟を決めた首脳陣との会話

又吉克樹【写真:竹村岳】
又吉克樹【写真:竹村岳】

3月22日に小久保監督が2軍降格を明言「伝えた」

 2軍に「落ちるだろうな」。プロ12年目、首脳陣からの通告は“察していた”。ファームで汗を流しているのが、又吉克樹投手。開幕直前に監督室で行われたやり取りに深く迫った。

 2021年オフに国内FA権を行使して、中日から移籍した。ホークス4年目となる今季、オープン戦では5試合に登板して防御率1.69と結果を残していたが、厚すぎる中継ぎ枠にも阻まれて開幕1軍入りを逃した。通算503試合登板。過去にも先発の経験はあったものの、キャリアのほとんどをリリーフとして積み上げてきた。

 3月22日、本拠地で行われた広島とのオープン戦を終えた後、小久保裕紀監督は「きょう伝えた」と2軍降格を明言した。挨拶のために訪れた監督室。ネガティブだった気持ちに、いきなり“光”が差し込んだ。

「まずは倉野さんに呼ばれて、その時に『先発やってみんか』『わかりました』と話をしました。その後に監督のところに行って、倉野コーチから『先発をやりたいと言っています。前向きに考えたいと言っているので』と言ってもらって。監督は『それなら、頑張ってみてくれ』ということでした」

 倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)から呼び出されたという右腕。3月下旬という時期も考えれば、その意味はすぐにわかった。「これだけ野球をやっていたら『落ちるだろうな』というのはわかりました。2軍でどういうことをやろうかと、それを考えているところでした」。予感は的中したが、先発打診までは正直、驚きだった。

「全く頭になかったわけではないですけど、それを首脳陣から提案されるとは思わなかったです。ロング(リリーフ)として準備もしていたし、先発だったらどうピッチングするんだろうとか思っていた中で、首脳陣もそういうふうに考えていたんだと、驚きの方が強かったです」

又吉克樹【写真:竹村岳】
又吉克樹【写真:竹村岳】

小久保監督、又吉は「いい顔をしていた」

 サイドスロー右腕の武器は正確な制球力。シュートやカットボールを操り、左右高低、ストライクゾーンを広く使うのが又吉の持ち味だ。小久保監督は通達した時に「いい顔をしていました」と話しており、倉野コーチも「一緒です」と、同じような印象を抱いたという。続けて「適性があるんじゃないかと。ショートイニングでいけるのはわかっているんですけど、彼の可能性を広げるためには先発をやる方がいいと思った」と説明した。

「じゃあ全員にあてはめればいいんじゃないかと思うかもしれないですけど……」。経験豊富な又吉にしかない適性を、倉野コーチは改めて言葉にする。「球種が豊富で、どのボールもストライク率が高い。要はゾーンに投げられるということです。あとは質の問題になってくる。これって最低条件なんですよ」。中継ぎとしての経験値は、誰もが知るところ。試合を崩さないための能力が、背番号14には備わっている。先発の「最低条件」を満たしているからこそ、チームと右腕の状況を踏まえて、打診に至った。

斉藤和巳3軍監督にぶつけた質問とは?

 初先発となったのは3月30日、ウエスタン・リーグのくふうハヤテ戦(タマスタ筑後)。3回4失点を喫した。後日、練習中に顔を合わせたのが斉藤和巳3軍監督だった。「どうですか?」と自ら積極的に質問をぶつけた。

「『和巳さん、先発の時って初回から全力でいっていましたか?』と。あれだけの成績を残された方で、僕はまだ先発のことを知らないし。(30日の登板は)中継ぎの延長って感じでいってしまった。慣れないうちは、初回から全力でいくこと。中継ぎみたいにうまく入ろうとしすぎると、上げ下げがないから、なんとなく打たれて、なんとなく抑えてみたいになるっていう話をしました」

 中継ぎは目の前のバッターに全力を尽くすが、先発は長いイニングを見据えて投球に“メリハリ”をつけなければならない。「次は初回から全力でいけるように」と意気込んでいた1週間後、4月6日の同戦では5回2失点と結果に繋げた。「先発は考えることが多い。もやもやするよりは、こうだったなと向き合うというか。次にやりたいことを考えられる。僕は考え込むタイプですし、整理するには(時間があることは)ありがたい」。新たな可能性を求めて、34歳の右腕が挑戦を続ける。

(竹村岳 / Gaku Takemura)