失策後の素振りに垣間見えた上沢の“素顔”
新加入した右腕の“素顔”が垣間見えたシーンだった。6日にみずほPayPayドームで行われた西武戦。先発の上沢直之投手が2回、野村大を打席に迎えた。直球で詰まらせた打球は自らのもとに転がったが、捕球がおぼつき、一塁送球も逸れた。自身のエラーで出塁を許すと、思わずグラブを右手に持ち替え、グラウンドに叩きつけるようなそぶりを見せた。
寸前で思いとどまったが、表情には悔しさが残ったままだった。試合を決定づけるようなプレーであれば感情が高まるのも無理はないが、今回は2点リードの2回1死無走者という場面。なぜここまで気持ちを前面に押し出したのか。試合後に振り返ってもらうと、上沢にとっての“矜持”がうかがえた。
「やっぱりチームとしても連敗が続いていたので。先制点をもらった直後に失点すると、どうしてもそういう雰囲気が流れてしまうと思ったので」
5回1死一、二塁で長谷川を併殺打に仕留めてピンチを脱すると、大きく吠えた。移籍後初登板となった3月30日の日本ハム戦でも降板直前に空振り三振を奪った際にはマウンド上で力強く声を上げた。普段はもの穏やかな雰囲気を漂わせているが、ほとばしる気迫はどこから生まれているのか。
「割と昔から変わってはいないのかなと思いますけど。意識してやっているわけじゃないです。ただ、自分の思いや感情を別に抑える必要はないのかなというのは、去年やっていて感じたので」
右腕が明かした異国の地での「後悔」
右腕が明かしたのは、異国の地での“後悔”だった。日本ハムで12年間プレーし、昨年は米球界に挑戦。憧れの舞台で結果を残すことはできなかったが、上沢直之という投手にとって大きな影響を与えていた。
「向こうに行ったら、やっぱり向こうのやり方に色々と合わせなくちゃいけないんですけど。自分のやりたいようにやれなかったことは失敗として、糧としてあるので。こっちでは自分がやりたいようにやろうかなと。例えば子どもって、別にあれこれ考えて野球をやっていないじゃないですか。普通にやりたいようにやっている。僕も純粋に野球を楽しみたいなっていう感じですね」
野球少年のような純粋な思い。嬉しい時は思い切り喜び、ミスをしたら目いっぱい悔しがる。誰もが当たり前に持っていた感情を押し殺してきた。ホークスに入団した際にも強い逆風に見舞われた。感じたのは、自分らしく生きることの重要性だった。
「いろんな声があって、いろんなことを言われましたけど。結局、どこに行っても結果を残さなかったら言われるし、そんな声を気にしていたら生活ができない。結局、やるのは自分なので。よくても言う人は言うし、悪かったらもっと言われるだけなので。しっかり頑張ろうという気持ちではいます」
現実と向き合い、ただ自分ができることに集中する。マウンド上で感情をあらわにする姿に感じた“人間臭さ”。そこに感じた上沢の魅力。純粋に野球を楽しむ右腕の今後が楽しみでならない。
(長濱幸治 / Kouji Nagahama)