試合前の山川穂高とメンタルコーチの会話 打率.069でも「時間の問題」、待望1号の“必然”

山川穂高【写真:小池義弘】
山川穂高【写真:小池義弘】

今季1号を含む3安打5打点の大暴れ

 主砲の一発がチームに勢いを与えた。6日に行われた西武戦(みずほPayPayドーム)の初回、2死一塁で山川穂高内野手が左翼席へ今季1号となる2ランを放った。さらに3回には右越えの2点適時打、5回には左越えの適時二塁打と、3安打5打点の大暴れ。「ホームランを打たないと開幕できない」。3安打5打点の活躍で、本拠地初勝利をもたらした。

 開幕から不振が続いていた4番。前日までは29打数2安打、打率.069という成績だった。それでも、5日の試合後には「(感覚が)違いましたね」と落ち込んだ様子を見せることなくドームを後にしていた。実はこの姿にこそ、不振から脱却する秘密が隠されていた。「この思考が彼の凄みだと思うんですよね」。こう語るのは今季からメンタルパフォーマンスコーチに就任した伴元裕コーチだ。

 6日の試合前練習中、山川と伴コーチが言葉を交わす姿があった。「そこまでの予見は僕は持っていなかったんですけど」と伴コーチは話すが、活躍を感じさせる要因が確かにあったという。2人は何を語り合っていたのか――。主砲の一打には山川ならではの凄みが凝縮されていた。その内容に迫る。

「そこまでの予見は僕は持っていなかったんですけど、山川選手が今打てていないことをあまり気にしてない感じというか、悲観的な感じはなかったので。もう時間の問題だろうなと思っていました。そこに関しての不安は僕自身も抱いていなかったので、遅かれ早かれ出るだろうなと。それが今日だったっていうのがやっぱりさすがですね」

 これまで多くのアスリートのメンタルケアに携わってきたが、山川ほど「コントロール」に長けた選手はいないという。「山川選手からは僕がアドバイスをもらっている感じです。メンタルへの知識もものすごく深いですし、本人がどんなことを気にしているのか、例えば今打ててないっていう状況をどう捉えているのかとか、そういう雑談をしていました」。通算253本塁打。実績あるスラッガーがどのような考えで今を過ごしているのかを確認した。言葉の節々から、いつもと変わらない姿勢が見られたことで、アーチはまもなくだろうと感じていたという。

求めてきた2025年の“山川穂高”

 キャンプからシーズンに入るまでの間に山川が継続してきたことがある。「キャンプ、オープン戦の時に関しては、山川選手は結果じゃなくて、2025年の形を作るっていうことだけが唯一の目標というか、目的意識だったんです。今年の物を作っていくっていうスタンスを貫いていて、オープン戦までの時間の使い方に意識を向けていたんです」。結果が重要な世界ではあるが、2月1日から“形を作る”という面において一切ブレていない。

「打席に入る時に足の向きとか、1回しゃがむんですけど、その時に膝が外を向いた方がいいのか、内を向いた方がいいのかとか。そのぐらいの細かさのレベルで、自分の中でしっくりくる形を探していく。目的をセットして、そこに向けて一直線になるっていう、この思考が彼の凄みだと思うんですよね」と、伴コーチも舌を巻く。

「まさに待ちに待った1本ですね、自分にとっても。ちょっと修正に時間がかかりましたけど。まず1本、いいところで打てたので良かったです」と山川は試合後に笑顔で語った。自身にとっても待望の一打であったはずだが、ベンチで様子を見ていた伴コーチの目線からは、今後は波に乗っていける確かなものを感じたという。

「打った後もみんなに『ナイスホームラン』って言われても、一喜一憂していなかった。結果でブレないところは、目的意識が明確だからこそできることなんだろうなと思います。今後もそれがブレていなければ、多分打つと思うんですよ。その状況が続いているんだったら僕はもう何も変わらないんじゃないかなと思っています。そこだけ気をつけるかなっていう感じです。いやー、さすがですよね」

 山川が自ら“開幕”と位置づけた待望の一発は、不振脱出以上の意味合いを持つのかもしれない。「2025年の形を作る」という明確な目的意識に近づいていることを体現した。本拠地初勝利を呼び込んだ号砲。今シーズンは何度の「どすこい」でファンを盛り上げてくれるのか。非常に楽しみだ。

(飯田航平 / Kohei Iida)