ベンチスタートの開幕戦で見えた“不屈の魂” コーチが語る牧原大成の「唯一無二」

牧原大成【写真:竹村岳】
牧原大成【写真:竹村岳】

開幕戦の6時間前にグラウンド一番乗り

 開幕戦の開始時間から6時間ほど前、グラウンドに一番乗りしたのは今季プロ15年目を迎えた牧原大成内野手だった。28日のロッテ戦(みずほPayPayドーム)に備え、若手野手らとともにアーリーワークで汗を流した32歳は黙々とバットを振り込んだ。

 こう書き出してはみたが、この日の出来事は決して珍しいわけではない。シーズン中、早出練習に参加するのが牧原大にとっての“日課”だ。風景は変わらずとも、背番号8を取り巻く環境は大きく変わったといっていいだろう。

 2023、2024年と2年連続で開幕スタメンを勝ち取ったのに対し、今季はベンチからのスタートとなった。年明けの自主トレでは「正直、練習の量はできなくなってきている」とこぼし、「もう若くないし、出られる機会は減ってくる。セカンド以外をやれと言われたらやります」と本音も明かした。様々な思いを抱える中でも、牧原大の姿勢は変わらなかった。

「やることをやって、結果がダメなら仕方ないので。それは何年目だろうが関係ないし、変わることはないので。ただそれだけです」

牧原大成【写真:竹村岳】
牧原大成【写真:竹村岳】

絶賛の打撃コーチ「敗戦の中でも絶対に響く」

“不屈の魂”は、試合中の限られたプレーにも存分に表れていた。9回の守りから二塁に入ると、6点ビハインドの展開であっても大きな声で内野陣に指示を飛ばす姿があった。その裏に回ってきた今季初打席では2球で追い込まれながらも、4球目のフォークを左前にはじき返し、「H」のランプを灯した。一塁上で本多雄一内野守備走塁兼作戦コーチと力強くタッチを交わす姿からは意地が伝わってきた。

 牧原大の姿に目を細めたのが村上隆行打撃コーチだった。「早出練習はグラウンドでやる選手もいれば、中で打つ人もいる。大成だけじゃなくて、このチームにいる選手はみんな、しっかりとした準備はしてくれているので」。そう前置きした上で、こう口にした。

「(9回2死で)近藤(健介外野手)が打ったセンターフライに対しても、最後まで全力で走っている姿が彼の良さなので。敗戦の中でも他の選手に絶対響いてくるプレーだと思います。彼のスタイルは唯一無二です。自分のやれることをしっかりとやる。それを彼はずっと続けているので。これが牧原大成という男なんです」

 試合後、牧原大は今季初ヒットを放ったことすらも気にせず、ぶっきらぼうに「関係ないですよ、負けたので」と言い切った。「あの展開になってなかなか難しいですけど、与えられたのが1打席だったので。結果がどうこうというよりも、悔いが残らないようにやるだけです」。

 先制点を奪ったシーンでは誰よりも先にベンチを飛び出し、手を叩いて喜びを露わにした。その一方で、帰り際は誰よりも悔しさを表情ににじませていた。そのどちらもが“牧原大成という男”の魅力だ。

(長濱幸治 / Kouji Nagahama)