指揮官として注ぐ情熱…「ここでやってほしいな」
マウンドでしか味わうことができない景色がある。23日、みずほPayPayドームでソフトバンクの20周年を記念して開催されたOB戦(SoftBank HAWKS 20th ANNIVERSARY SPECIAL MATCH Supported by 昭和建設)。球団の歴史を彩るにふさわしい顔ぶれが揃う中で、ひときわ大きな歓声を浴びたのが斉藤和巳3軍監督だった。
「こうやってホークスのOBが集まって試合をすることはなかったからね。辞めた後でもOBが集まる企画があると、いろんなことにプラスのことも起こるかなという感じがする。これが初めてのことやから、今後どうなっていくかっていうのが楽しみやけどね」
現役時代同様に、ダッシュで上がったマウンド。あの頃と変わらないフォーム。終始笑顔を見せながらの投球に、ドームを埋め尽くしたファンは大いに盛り上がった。しかし、斉藤監督の胸の内は球場とは“別のところ”にあった。久しぶりのマウンドから見た光景に抱いた思いは、違った場所にも向いていた。
「いやもう最高よ。やっぱここでやらなあかんなって。今はもう現役じゃないからあれやけど、ここでやってほしいなというのは、ずっと感じていたね。この場所にみんな来てほしいなって。3軍、4軍の選手を預かっているから特にそれは思ったね」
満員の観客で埋め尽くされたドームの景色を久しぶりに目の当たりにして、感慨深げに語った。その言葉の矛先は、自身ではなく、筑後で汗を流す選手たちに向けられていた。肌からも伝わる熱狂を自らの力で味わってほしい――。1人でも多くの若鷹がこの舞台に立つことをマウンドで願っていた。
「自分がまた来たいなという感じよりも、そっちよね。この景色を見せてやりたいなっていう。おれの力だけでやれることなんて、ごくごくわずかやから。選手たちが自分の力でこの景色を見てほしいなって」
若鷹に求める意識向上…「上を目指して毎日を過ごしなさない」
今季の支配下選手の残り枠は「5」。厳しい競争が繰り広げられる中、斉藤監督は選手たちの意識について率直な感想を述べた。「ピッチャー同士、野手同士はそれぞれライバルではあるけれど、支配下になるってなると育成選手全員がライバルなわけよ。そういうところまでの意識がどこまであるか」。競争意識の重要性を説きつつも、「その意識を植え付けるのはこっちの仕事」と、指導者としての決意をにじませる。
1軍の舞台を目指すためには、まず2軍に上がらなければならない。「『上を目指せ。2軍に上がり、最終的には1軍に行くことを自分の中でイメージしながら毎日を過ごしなさい』とは言っている」。選手たちには常に高い目標を持つよう促している。しかし「やっぱり意識が低いからここにいる」と、現状の課題も率直に指摘する。
「こっちも根気よく伝え続けていかないといけない。結果が出ないと精神的な波が大きくなる選手ばかりなので、そういった時にどういうことを伝えるかは常に考えている」
結果が出ない時にこそ、選手たちの心の支えとなる。OB戦のマウンドで再確認した満員のドームの熱狂。斉藤監督は、“最高の景色”を若き才能たちに見せるため、これからも情熱を注ぎ続ける。
(飯田航平 / Kohei Iida)