栗原陵矢が右脇腹を痛めて離脱…小久保監督も開幕は「おらんものやと」
大本命を欠いたまま、開幕を迎えることになりそうだ。期待をかけられ続けている大砲候補は、何を思うのか。「すごく複雑です……」。リチャード内野手は、今季がプロ8年目のシーズン。オープン戦でも2本塁打を放つなど、大器の片鱗を少しずつ見せ始めている。
2020年から5年連続でウエスタン・リーグの本塁打王を獲得。誰もがそのポテンシャルを認めるが、それは2軍で打席数を重ねてきたという証でもある。2025年は「自分を変えたい」と、“師匠”である山川穂高内野手のもと、徹底的に自分を追い込んできた。
3月11日の巨人戦(長崎)、栗原陵矢内野手が右脇腹を痛めて戦線離脱した。三塁ファウルゾーンの飛球を追い、フェンスに激突。翌日から別メニュー調整となり、小久保裕紀監督も「おらんものやと思っている」と“開幕アウト”を明言した。昨年20本塁打を放ち、首脳陣もさらなる飛躍を期待していた一方、リチャードにとっては“最大の壁”でもあった。先輩の離脱を、心から喜べるはずがない。
「周りからはチャンスとか言われるけど、やっぱチームメートなので。怪我しているの見ると辛いし、かわいそうだし。そういうお人好しじゃだめっていうのも分かっているので、自分もここで頑張らなきゃって言い聞かせてます。喜べないけど。早く治ってくれたらいいなとも思いますし、すごく複雑です」
12日、巨人戦の試合後(みずほPayPayドーム)にこう話していた。後日、真意を問われても「いや、そこは……」と多くを語らない。誰かがレギュラーを奪えば、誰かがベンチに座る世界。チャンスが訪れていることは事実だが、チームとしても栗原という太い柱を欠いて戦うことになった。同僚の負傷を喜べるはずがない。「辛い」という言葉に、リチャードの思いが込められていた。
オープン戦も終盤に差し掛かり、2本塁打を記録。7日のロッテ戦(ZOZOマリン)では4打席連続三振を喫したが、一喜一憂はしないと決めている。自ら「変わりたいです」と頭を下げて、昨年12月から行った山川との自主トレ。「人間って、キツかったら泣くんですよ」と、思い出は苦しかったものばかりだ。2か月で味わった経験を「ははは! えっとね……」と、笑いながら振り返る。
「これは、ちょくちょく思うことなんですよ。打てなかった時に思い出します。あれをもう1回やるって思ったら、まだこの凡打も……って。受け入れるじゃないですけど、それも含めてやるしかないですよね。4三振した時もメンタルはズタボロでしたけど、そういうことも思いましたし。自己分析もちゃんとやっていますけど、あのキツさは身になっています」
1月上旬、沖縄・久米島に集合。自主トレが始まる前夜、山川とともに食事をしていた。少し落ち着くと「よし、ちょっとやろうか」。バットを手にした。それも数回ではない。数百回と素振りを繰り返し、食後でも汗だくになっていたそうだ。「いや、明日からもやるじゃないですか! とか思ったんですけどね。過酷でしたけど、やってよかったです」と笑みを浮かべる。技術面はもちろん、師匠から教わった全てが今の自分を支えている。
開幕に向けてポジションを争っている今、地に足もついているのもそれだけ練習したからだ。「打てなくて怒ってもいいんですけど、冷静な時の方が……。一目瞭然じゃないですか。調子に乗らないように、足元を見つめて、自分に問いかけてやっています」と、毎日が闘い。試合後も、打撃練習してから帰るのが日課だ。山川との日々で「忍耐強くなったのかもしれないです」と、少しでも自分を変えようとしてきた。
「今日はマジで打ちたくない、体が痛いってなっても、やらなかったら負けだなって思うんです。『やったら勝ち』、『マシン1球だけ打つわ』って周りに言いながら、結局30分打ったりとか。それが30球で終わることもあるんですけど、打っても『はい次』、打てなくても『はい次』。試合が終わったら明日の準備。朝起きたら『今日はこれする』って考えて、球場に着いたらまた準備です。ロボットみたいですけど(笑)」
オープン戦も、残り3試合。開幕が近づいてきているが「やるべきことをやるだけです。準備をしっかりすることと、自分のスイングをすること。それだけです」と、冷静な口調は崩さなかった。今はただ自分のためだけに、アピールを続ける。
(竹村岳 / Gaku Takemura)