「正直プライベートはほとんどない」 特別な関係性…斉藤和巳が語る和田毅との“空気感”

ダイエー時代の斉藤和巳(左)と和田毅【写真:産経新聞社】
ダイエー時代の斉藤和巳(左)と和田毅【写真:産経新聞社】

和田が1年目の2003年にシーズン20勝「自分のことに必死だった」

 絶対に負けたくないライバルでもあり、かけがえのない友でもあった。「ワッチはバリバリで騒がれて入ってきたからね。怪我さえしなければ、普通にローテーションには入るんやろうなって感じではあったね」。斉藤和巳3軍監督は、懐かしむように当時を思い出す。

鷹フル「和田毅引退試合特設ページ」

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 和田毅氏がプロ入りした2003年は、高卒8年目を迎えていた斉藤氏にとっても転機のシーズンになる。前年までのプロ通算7年間で挙げた白星は「9」。1995年ドラフト1位で入団しながらも、球団の期待に応える活躍はできていなかった。「ワッチが入団した当時は、もう自分のことに必死だった。自分の場所が確立されているわけでもなかったので、そんなに余裕もなかった」というのは紛れもない本音だった。

 結果的に、先発16連勝をマークするなど20勝をマーク。最多勝、最優秀防御率、最高勝率を獲得し、沢村賞に輝いた。チームのリーグ優勝、日本一に貢献し、エースの地位を築いた。一方、早大時代に東京六大学野球の新記録となる通算476奪三振を樹立するなど、鳴り物入りでホークス入りした左腕も負けず劣らずのマウンドを見せた。プロ1年目から14勝を挙げ、満票で新人王を獲得した。

 斉藤氏にとって、和田氏は3学年下。いきなり頼もしすぎる姿を見せた後輩左腕とは、どんな関係性だったのか――。

「正直ね、プライベートで一緒に食事したり、飲みに行ったりとかって時間はほとんどなかったんよね。他のローテーションピッチャーもそうやけど、一緒にローテを回っていると、なかなか流れが合わなかったりするので。でも、野球のことや投げることについては、他のピッチャーより断トツで話してきたので。投げることに関しては時間を忘れるくらい話せる相手やね」

 グラウンド外での付き合いはほとんどなかったが、投手という“同志”として、これ以上なく意見を言い合える存在だった。野球への情熱、貪欲な探求心――。後輩とはいえ、和田氏に尊敬を欠かすことはなかった。

インタビューに応じた斉藤和巳3軍監督【写真:上杉あずさ】
インタビューに応じた斉藤和巳3軍監督【写真:上杉あずさ】

「いろいろとアマチュアの時から細かいことまで考えていたからこそ、ここまできたんやなって。ロッカーも近かったので。彼の行動を見ると、そんなにアスリートとして恵まれた体格ではない中で繊細にやってきたからこそ、ここにいるんやろうなと思いましたね」

 時間を忘れるくらい野球談議に花を咲かせてきたが、意見がぶつかったことは「ないないない。1回もない。ぶつかる理由もないし」と笑う。呼吸が合う2人。斉藤氏について、和田氏はかつて「入団した時は金髪坊主でめちゃくちゃ怖かったですけど。話すと面倒見のいいお兄ちゃん的な存在でした」と評したことがある。野球人として共鳴する部分があったからこそ、切磋琢磨し続けることができた。

近くで見てきたからこそ分かる“和田毅が現役を22年間続けられたワケ”

 斉藤氏は球界に大きなインパクトを残すシーズンもあったが、実働11年と故障との戦いが続いた現役生活だった。だからこそ、プロ22年間を走り抜けた和田氏に対し、素直に尊敬の言葉を口にする。

「ワッチはずっと変わらへんね。もともと、そこ(考え方)がしっかりしているから現役も長くできたんやと思うし。アマチュアのころからしっかりやってきて、プロに入ってもその質をさらに高めることに対して時間は惜しまないっていう感じでやっていたから。だから長くやれたんちゃうかな」

 印象に残っている出来事を尋ねると、斉藤氏はいたずらっぽい笑みを浮かべながら、こう答えた。

「そういうのはないなぁ。ワッチはそういう感じでもないからね。杉(杉内俊哉氏)とか渚(新垣渚氏)ともタイプが違うし。ワッチは自分のことを淡々とやる人間やし。名前を出した2人と俺は練習はちゃんとするけど、それ以外はワイワイ、ガヤガヤしてるから。ワッチはそれがないからね。常に一定の感じやから」

 単に仲がいいわけではない。ほどよい緊張感を保ちつつ、互いに限界まで野球と向き合ったからこそ、培われる関係性がある。今も語り継がれる4本柱の“長男”は、和田毅を特別な存在だと思っている。それだけで十分だ。

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(上杉あずさ / Azusa Uesugi)