鷹フル記者の涙…和田毅は「すごくうれしかった」 深夜1時の路上で起きた“20分間”
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- 2025.03.14

徹底した独自取材、データ分析
選手の本音や核心に迫る「鷹フル」
発表の前日に知った現役引退…鷹フルが独自ニュースを報じなかった理由
時計は深夜1時を回っていた。晩秋の福岡。わずかに冬の気配を含んだ空気を吸い込みながら、ほろ酔いの和田毅は、とある路上を歩いていた。ふと、2人の人影に気づく。週刊誌の直撃をわずかに疑ったが、即否定できた。「俺、何もしてねえぞみたいな(笑)。え、何?」。時間も時間。驚きはあったが、顔見知りだと分かって安心した。「鷹フルやったっす」。およそ20分の立ち話が始まった。
和田毅の現役引退がホークス球団から発表されたのは、2024年11月5日の午前10時。そこから半日あまり時間を巻き戻した11月4日の夜だった。日本シリーズの戦いを終えた主力選手たちは、互いに1年間の労をねぎらうための食事会を開いた。日付が変わったころ、会はお開きに。和田毅はなぜかタクシーを選ばず、おもむろに歩いて自宅方向に向かい始めた。
慌ただしく電話をしたり、メッセージを打ち込んだり。約9時間後に発表される前に、友人や関係者に報告した。「同期とか大学とか高校とかのグループLINEがあるんで。そこでバーッてメールして」。鷹フルの記者に遭遇したのは、ひと通り連絡を終えたころだった。
「誰やと思ったら、長濱さんと竹村さんで」
長濱幸治と竹村岳には、どうしても夜のうちに確認したいことがあった。和田毅にとってはプライベートの時間で、しかもド深夜。無礼は重々承知していたが、記者の性を無視することもできなかった。野暮ったい前置きはいらない。第一声でこう言った。
「書かせてくれませんか?」
和田毅と交わした約束「ちゃんと守ってもらったので、安心しました」
毎日のように顔を合わせる選手と記者。“何を”と言う必要もなかった。その1日前には、一部報道で「和田毅、来季も現役続行へ」の見出しがSNSを賑わせていた。真実は異なることをファンに届けたい鷹フルの思いを汲み取った上で、和田毅は優しく首を振った。
「発表が出るまでは書かないでもらえますか」
押し問答をしようと思えばできたが、長濱幸治と竹村岳はすぐに受け入れた。“引退する”という事実だけを、球団発表のほんの少し前に出すことが鷹フルの役目ではない。和田毅がどう22年間を戦い抜き、どんな思いでユニホームを脱ぐ決断をしたのか、その心の内を伝えることこそが、鷹フルの存在意義だった。だから、その場で思いを聞いた。
現役引退を「書かないで」 和田毅がひた隠しにした理由…守りたかった“仁義”
「書かないでもらえますか?」。迷いのない表情を浮かべた和田毅はキッパリと言った。そこには、43歳のベテランが貫きたい“仁義”があった。 続きを読む
和田毅は、根負けしたように言う。
「本当は話したくはなかったですけど(笑)。来てもらった以上はね、っていう。でもやっぱり発表まで待ってくれって言ったのは、待ってもらったんで。そこはちゃんと守ってもらったので、安心しました」
最後の最後まで隠し通した真意、シーズン中の“引退記念登板”を嫌がった理由、そしてどんな時も背中を押してくれたファンへの感謝――。言葉に一切の淀みはなく、熱を帯びていた。
記者・竹村岳が思わず涙…「なんでそんなに悲しそうなのさ!」
取材を拒否されるという不安から解放された安堵もあったのかもしれないが、和田毅の言葉を全身で受け止めた竹村岳は、堪えきれずに目頭を押さえた。記者として、私情を挟まずに客観的な取材活動を貫いてきたが、純粋に「投手・和田毅」が大好きだった。
突然の涙に、和田毅は「ビックリしましたけど、すごくうれしかったです」と振り返る。湿っぽくなった空気を変えるように、穏やかに笑い、竹村岳の肩を叩いて言った。
「選手ではなくなっちゃうけどさ、なんでそんなに悲しそうなのさ!」
特ダネを書けない記者を気遣ってか「今しているこの話も、裏話にしちゃいましょう」とも添えた。
長くも短くも感じられた20分間の会話を終え、家路につく和田毅の背中を見送った。長濱幸治と竹村岳は鷹フルキャップの飯田航平と合流。熱を帯びたまま、3人で夜を徹して原稿を執筆していった。
11月5日午前10時、「和田毅投手の現役引退について」という球団発表の直後、鷹フルは「独占激白」の見出しで和田毅の思いを詰め込んだ記事を出した。夕刻には引退会見を取材し、チームメートたちの反応も数日かけて丁寧に追った。
和田毅が独占激白 ファンへの“謝罪”…引退試合が“延期”された理由、22年間貫いたプライド
今季限りで現役を引退することが発表されたソフトバンクの和田毅投手が、鷹フルの単独取材に応じた。左腕が明かしたのは22年間の現役生活で貫き通した「信念」と、長年声援を送ってくれたファンへの“謝罪”だった。続きを読む
選手も記者も、人と人。信頼関係やリスペクトの上に、取材は成り立つ。選手たちの思いをどれだけ凝縮し、ファンに届けることができるか。「本当のホークスファンに見てほしい」。鷹フルが掲げるミッションを再認識させられた、和田毅との時間だった。(敬称略)
取材を担当した記者
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- 編集者:長濱幸治
- 福岡市出身で、泰星高校(現上智福岡高校)を経て九州大学を卒業。かつては「走れる捕手」として鳴らす(ただし軟式)も、今や見る影もないメタボおじさん。前職を含め、ホークス取材歴は7年目になりました。選手の「根っこ」に迫る取材がモットー。「チーム鷹フル」一丸で野球の魅力、そして奥深さを伝え、ホークスのNo.1メディアを目指します。
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- 編集者:竹村岳
- ホークスを取材して5年目を迎えました。ファンの方々の、選手を「応援する」という気持ちはとても尊いものだと思っています。その気持ちとリスペクトの思いを大切にして、選手の人生の一部が、少しでも皆さんに伝わるように一生懸命頑張ります。楽しみながら、一緒に鷹フルを作っていきましょう。大好きなものは「UVERworld」です。
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- 編集者:飯田航平
- 他では見ることができない「選手の表情」や「選手の考え方」など、皆様にご満足いただけるコンテンツを発信できるように頑張ります。鷹フル独自の記事や動画を通じて、皆様がさらにホークスのこと、そして選手のことを好きになっていただければ嬉しいです。私もホークスファンの1人として、皆様の熱量に負けないように頑張りますのでよろしくお願いします。
ホークスファンのための専門メディア「鷹フル」とは?
メディア界隈では、競合他社に先んじて独自ニュースを報じることを「抜いた」と言います。逆の立場になれば「抜かれた」で、担当記者にとっては大きなダメージです。
その切磋琢磨があるからこそ、時に権力の不正を暴く大スクープや時代を動かすムーブメントが生まれ、メディアとしての信頼度や、存在価値にも繋がります。一方で、メディア同士の“意地の張り合い”になる負の側面もあるのが事実です。取材を焦るあまり、誤報が生まれ、結果的に読者は情報に踊らさせることになります。
鷹フルも当初、和田毅引退のスクープを球団発表の前に出したいと考えていました。しかし、和田投手と実際に話したことで、それがメディアのエゴなのではないかと自問自答するきっかけになりました。
最優先すべきは和田投手の思い、そしてホークスを支えるファンの皆さんの思い。和田投手の言葉で引退を語ってこそ「ニュース」なのだと再認識しました。
私たちの届けたいという思いだけでなく、選手たちが知ってほしいこと、ファンの皆さんが知りたいこと。ひとつでも欠けないように、それぞれを大切にしながら発信していけるメディアであり続けたいと思っています。
(鷹フル編集部)