自らの身を省みることなくプレーした盟友の気持ちが、誰よりも理解できた。「そこで手を抜く選手は試合には出られないです」。12日の巨人戦(みずほPayPayドーム)で一時同点となる適時打を放ったのが、周東佑京内野手だった。選手会長は、右脇腹を痛めて別メニュー調整となった栗原陵矢内野手について言及。選手としての“本能”を代弁した。
心配無用と思えるほど、鋭いスイングだった。1点ビハインドの2回2死二塁。周東の右翼線への適時二塁打で試合を振り出しに戻した。9日のロッテ戦(ZOZOマリン)では左中間の打球を追いかけ、左翼の正木智也外野手と交錯。途中交代するなど状態が心配されたが、「10分後には(痛みは)引いていました」という。3日ぶりの出場を終えて「何もなくてホッとしています」と、胸を撫で下ろした。
11日の巨人戦(長崎)では、栗原が飛球を追いかけて三塁ファウルゾーンのフェンスに激突。“古傷”でもある左膝の状態が心配されたが、痛めたのは右脇腹だった。周東は試合には帯同せず、本拠地での残留練習に参加していた。盟友のプレーをどのように見つめていたのか。「ちょうど映像で見ていましたよ」。語ったのは、1人の選手としての“本音”だった。
「ピッチャーも先発ローテーションやポジションがかかっている中で、中途半端なプレーはできないです。じゃあ取れたアウトを取れなくて、次の球をホームランにされたら……。それでローテがなくなりました、となったらピッチャーに責任がかかる。争っている中で僕らも手助けしないといけないですし。『無理するところじゃない』と思われるかもしれないですけど、チームでやっているわけですから」
オープン戦は開幕に向けた調整期間。“当落線上”の選手は目をギラつかせているが、栗原は首脳陣にとっても計算に入れていた存在のはず。それでも、グラウンドに立てば、目の前のプレーに必死にならなければならない。「アウトを取りにいった結果ですから。それはもうどうしようもできないです」と選手会長は続けて代弁する。これまで体をボロボロにしながらもチームのために戦ってきた周東だから、わかる気持ちだった。
「そこで手を抜く選手は、試合には出られないと思います」
自身にも言い聞かせるような言葉だった。この日の巨人戦、初回に四球で出塁すると、すかさず二盗を決めた。昨年11月に左膝を手術したばかり。スライディングには“怖さ”を抱いているといい「言い方はあれなんですけど、ビビっています! 練習の中でいけるのはわかっているんですけど、体が嫌がっています。反射的にいけていないというのは、(オープン戦で)2回走ってみて感じますね」と認める。そんな中でも、出場すればチームの勝利のために全力を尽くすのは、選手として当然の責務だ。
長崎の試合から一夜が明けたこの日、栗原は本拠地を訪れて別メニューで調整した。チームの雰囲気について周東は「おのおのがやるだけですし。引きずるわけにもいかないです。監督もおっしゃっていますけど、いる選手で勝っていかないといけないです」と表情を引き締めた。 オープン戦であっても、選手それぞれに“人生”がかかっている――。手を抜かなかった盟友の思いは痛いほど、伝わってきた。
栗原が負傷交代した後、周東は「無事を祈る」とメッセージを送ったという。ともにチームを支えてきた盟友は、担架に乗せられ苦悶の表情を浮かべていた。「心配でしたか?」。そう聞いてみると「いやいやいや、うーん」と否定しながらも「膝だったらしんどいだろうな、心配かなと思ったんですけど。LINEも返ってきたので、大丈夫かなとは思っていました」と明かした。“3.28”まで約2週間。全員が万全の状態で、開幕を迎えてほしい。