「うまっ!」選手たちが思わず称賛 リチャードに際どい打球…奈良原ヘッド語るノックの“冥利”

奈良原浩ヘッドコーチ【写真:竹村岳】
奈良原浩ヘッドコーチ【写真:竹村岳】

初めて語った冥利に尽きる瞬間…「隠れる選手もいっぱいいた」

 華麗なプレーの陰には、地道な練習の積み重ねがある。日々の鍛錬を支える重要な要素の一つが「ノック」だ。奈良原浩ヘッドコーチはノックの重要性について、自身の経験を踏まえながら熱く語る。「ノックがうまくないと、選手はうまくならない」という言葉には、選手への深い愛情が込められている。

 春季キャンプ中の出来事。守備練習で一塁に就いたリチャード内野手が「ボールください」と声を上げた。直後に響いた乾いた音。「うまっ!」と選手たちの声が上がる。ノックバットでリチャードの胸元にボールを打ち込んだのは奈良原ヘッドコーチだった。

 自身も現役時代は名手として守備の要である二遊間を守ってきた。数えきれないほどのノックを受け、感じたことは「練習になる打球と、そうでない打球がある」ということだった。そんな奈良原ヘッドコーチが、ノックへのこだわりと、1球に込める思いを明かす。「うまくなってくれ!」――。

「僕がコーチになったばかりの頃、当時の先輩コーチに教わったのは、1球1球『うまくなってくれ』と思って打つことだった。それは今でも変わりません。速い打球への反応が遅い選手には、速い球を打たなければいけないので、強く打つ時もあります。その時は『頼むから、怪我しないでくれよ』と思いながら打ったりもします」

 奈良原ヘッドコーチがノックの重要性を痛感したのは、現役引退後にコーチを務めていた時代だ。1日に1000球ものノックを毎日打ち続ける中で、その奥深さを知った。「下手くそすぎたら選手に申し訳ない」という思いから、ゴロやフライなど、あらゆる打球を正確に打てるように猛練習を重ねたという。

「この選手の今の状態なら、こういう打球を練習させた方がいいというものがある。だけど、その打球を打つだけの技量がなければ、知識があっても練習させることができないんです」

 選手が課題を克服するために必要な打球を再現する技術がなければ、効果的な練習にはならない。言葉で技術指導することも大事だが、選手の体に動きを染み込ませるためにはノッカーのスキルの方が重要だと奈良原ヘッドコーチは語る。春季キャンプ中でも、ルーキーの庄子雄大内野手に対して、ハーフバウンドになるタイミングのゴロを何度も打ち続けていた。

「トップスピンもかけるし、軽いバックスピンをかけることもあります。詰まった打球は若干バックスピンがかかったりもする。選手が試合で困らないような打球を用意しておいてあげたいんです」。知識と技術の両輪が揃ってこそ、選手を成長へと導くノックが可能になると、奈良原ヘッドコーチは熱を込めて語った。

「ロッカーに俺がいるって思うと、隠れる選手もいたんですよ。毎日こんなにノックしやがってって思っていたんでしょうね。だけどそういう選手に限って、引退する時に真っ先に連絡をくれるんです。『あの時にあれだけノックしてもらったから、この年まで続けることができました。鍛えられたんでうまくなりました』とかね。あぁ、やっぱり15年後くらいに、しっかりやってきた選手はわかるんだなって」

 選手が確実なプレーを重ね、アウトにできる打球を当たり前に処理してくれることが何よりもうれしい。厳しい練習を乗り越え、成長を遂げた選手からの感謝こそが、ノッカー冥利、コーチ冥利に尽きる瞬間だ。

「選手をうまくするために最善を尽くしているだけ」。優しい笑顔で話す奈良原ヘッドコーチ。謙遜する言葉からは選手への愛情が伝わってくる。その思いと技術が、今季も選手の成長を支え、ホークスを強くする。

(飯田航平 / Kohei Iida)