昨年の春季キャンプはまさかの幕開けだった。体の中から聞こえた音は「ポキッ」。左第1肋骨疲労骨折により、まさかの初日離脱を余儀なくされた。それだけに、今年のキャンプインには特別な思いがあった。冗談だとわかっていても、蘇る昨年の“悪夢”。24歳がこぼした思いは「怖かった」――。
「『もう今年はやるなよ』みたいな。『今年もやるんか』って言う人もいたので。ちょっと怖かったですね。でも去年は、ここに来る前から多少の違和感があったんですよ。そういった意味では、今年はなんか肉離れとか筋肉系(の故障)の方が心配でした」
期待されているからこその言葉だと本人も受け止める。順調な調整を進めてきた中でも、怪我の心配は否が応でも意識していたと本音をこぼす。それでも昨年とは違い、万全な状態で宮崎に戻ってくることができた。チーム全体の練習メニューが終わった後も、毎日黙々と個別練習に励む姿がある。A組に抜てきされたことには安堵するが、1枠をめぐる争いに妥協する気はない。
「守備でも、投げることだったり、止めることだったり。バッティングもそうですけど、それ以外のところでもやることはいっぱいあります」と意欲的な姿勢を見せる。時間はいくらあっても足りないくらいだ。
正捕手争いの真っ只中で課題を1つずつ潰す日々だが、すべてが順調にいくわけではない。15日に行われた紅白戦では、打った瞬間にスタンドインを確信する特大弾を放ったものの、パスボールや暴投など守備面でのミスが目立ってしまった。「悔しさしかないです。打った時から『クソっ』と思ってたんで」。バットを放り投げる仕草は自身への“怒り”の表れ。「人生で最後のホームランになるかもしれないと思って噛み締めました」と、喜びよりも悔しさが先行した。
「監督のコメントにもありましたけど、誰が監督でも守れないと出しにくいなっていうのはあると思うので。そのためにしっかり練習して、自信をつけていきたいなと思います」
渡邉陸にとって2025年は特別なシーズンになる。背番号を79から00に変更。「いいタイミングで、いい番号になったのかなって思うので。新たな気持ちはあります」と、心機一転してスタートを切る。「開幕時に1軍にいたことがないので、そこを想定しながらやっていますし、開幕戦でキャッチャーとして出た時も考えながらこのオフも過ごしてきたので。開幕の時にいい状態でいられるようにいたいなと思います」。過去のトラウマを乗り越え、新たな背番号で正捕手獲りへ邁進する。