味わった野球の“怖さ”「ずっと頭に残る」 正捕手争い加熱…海野隆司が乗り越えたい不安

インタビューに応じる海野隆司【写真:飯田航平】
インタビューに応じる海野隆司【写真:飯田航平】

甲斐拓也の移籍は「寂しいですけど」…やってきた最大のチャンス

 リニューアルした「鷹フルリレーインタビュー」。今回は、海野隆司選手にお話を聞かせていただきました。正捕手争いの中で語った胸中。「頭が腐るくらい見る」と、オフシーズンの過ごし方の一部を明かしました。今宮健太選手から学んだこと、自身が抱く理想の“捕手像”など、話題は多岐に渡ります。6年目を迎えた27歳の固い決意をお届けします。

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 甲斐拓也捕手が、FA権を行使して巨人に移籍した。1つしかない「扇の要」を掴もうと、全員が目の色を変えて取り組んでいる。海野も「寂しいですけど、チャンスだと思いました。勝って評価されるポジションですから、1番は試合に勝つこと」と受け止めていた。春季キャンプも第3クールに突入し「雰囲気ですか? そのままですね。競争です。勝負の2月だし、3月もそうです。そこを意識しないことはないです」と、静かに闘志を燃やす。

 谷川原健太捕手、渡邉陸捕手ら、ライバルは多い。それぞれが競争を勝ち抜くために、自分自身の“色”を見つめ直しているところだ。海野は、今春キャンプで重点を置くポイントについて「バッティングは、去年ちょっと良くなさすぎたので。その中で去年の秋から、形自体はそこまで自分の中で変えることはないと思った。とにかく量を今宮さんの自主トレを振らせてもらったので。バッティングの方は、1番練習したところです」と明かす。昨シーズン打率.173、打撃面の改善が最大の課題だ。

 今宮との自主トレ。昨年は「最後の1週間」ほどだったが、今年は最初から打ち上げまで完走した。「今宮さんから声をかけることはないので。自分から聞いていかないとあの人は教えてくれないんです」。ともにオフ期間を過ごすとはいえ、それぞれが競争相手であり、個人事業主。通算1371安打の先輩から、手を差し伸べてくることはなかったという。黙々と右打ちとセンター返しを繰り返す姿を見て、海野なりに受け取るものがあった。

「2年前、3年前くらいから一緒にバッティングして、間近で聞いたりしていました。内野手に対して、守備を聞くことはないですけど、バッティングは『こういうやり方をしているんだ』って感じです。聞くことも大事ですけど、見て真似るっていうか、まずはやってみること。最初からは聞かないというか、できなかったら『どうやってやってるんですか』って。ミヤさんの意識していること、こうやって打っているとか、考えも僕は試合中も聞いているので。ためにはなります」

 偉大な先輩の背中を見てきた。甲斐は飛行機や新幹線での移動中、対戦相手の映像に目を凝らしていた。高谷コーチも現役時代、当時の工藤公康監督からオフの間に「全試合書いてこい」と言われ、約160試合分のレポートを手書きで提出した。とにかくインプットが大切なポジション。海野も「自分が入団してきた時から見てきたし、ホークスのキャッチャーはそれが当たり前。高谷さんと甲斐さんから学んだというか、やって当たり前じゃないですけど、頭が腐るくらい見るというのは思っています」と語っていた。

 選手に配布されているタブレット。時間を見つければ、昨シーズンの試合映像を眺めたオフシーズンだった。「自分が出た試合、出ていない試合。印象に残ったのも、ありすぎてこれというのはないです」。椅子に座っている何気ない時間や、ランニングマシンでトレーニングする時はイヤホンをしながら目と耳を使って復習した。成果が問われるのはこれからだが「キャッチャーはやらないといけないことです」と自分自身を見つめる。昨シーズンに味わった野球の“怖さ”を、できることなら今季は経験したくはない。

「内心は絶対に怖いです。怖くないキャッチャーは絶対にいない。それはキャッチャーであるなら間違いなくあることですけど、それを見せないくらいの準備が大事だと」

 正捕手争いが加熱する今春のキャンプ、海野は自分自身の姿を「淡々」と表現する。チームメートにイジられればすぐに明るいキャラクターを発揮するが、自身が抱く“捕手像”は少し違う。「キャッチャーはどしっと座る。一番、堂々として、安心してもらわないといけないので。練習はいいと思うんですけど、いざ試合が始まった時に『うわ』って(元気を出して)いくポジションではないかなと思います」。サインを出す指1本ですら、投げる投手にも、後ろを守る野手にも気持ちは伝わる。不安も勇気も一瞬で伝播するのだから、堂々とできるだけの準備が何よりも必要だ。

 昨シーズンの経験を踏まえて、味わった“怖さ”を「消化できることはない」という。「相手にやられたら、どういうやられ方をしたのかはずっと頭に残るので。それが試合が始まった時に同じことを繰り返さないということ」。先輩たちが通った道を、自分も歩もうとしている。大きく羽ばたくのは、今しかない。

(竹村岳 / Gaku Takemura)