栗原陵矢のフォーム改造は「一発でわかる」 山川穂高の恐るべき“眼力”の正体

そばで行われている練習を見つめる山川穂高【写真:長濱幸治】
そばで行われている練習を見つめる山川穂高【写真:長濱幸治】

アーチストの流儀「体は休めても目だけは動かしている」

 通算252本塁打を誇るアーチストはつかの間の休息でさえ休まない。今キャンプ、山川穂高内野手はS組の一員として調整を一任されている。自身の練習に集中する一方で、合間の休憩中には身動き1つ取らず、そばで行われている全体練習や内野ノックをじっと見つめているシーンをよく見かけた。

 その姿は、先輩のプレーにくぎ付けとなるルーキーのようでもある。「まずは自分の休憩が優先です。ノックを受けたら休憩、ランニングをしたら休憩って。しっかりと体を休めながらも、目だけは動かしている感じです」。球界屈指の長距離砲から何かを盗もうと、若手の視線を集める立場の山川が、若い選手を食い入るように見つめる。そこには明確な意図があった。

「去年に比べて、この選手は『ここがすごくうまくなったな』とか。見たこともない選手は『こういう動きをするんだ』とか。そういうのをぼやっと見てますね。『へーっ』っていう発見があったり、真似できることもあったりするかもしれないですし。それはずっと見ていますね」

 山川ほどの実績ある選手であっても、学ぶ姿勢は変わらない。それは自身にも大きなメリットがあるからだ。「やっぱり客観視するのはプラスになりますね。俺ってどう見えてんのかなって。主観だけにならないように。基本的に8割方は主観なんですけど。客観的な視点も忘れないようにというのが1つですね」。周囲を見る目があって、初めて自分がどう映っているかがわかる。その冷静さがアーチストの基盤だ。

 すでに発見もあった。「栗原なんかは今年、打ち方が明らかに変わっているので。僕は見たら一発でわかるんですけど。『誰に教わってこうなったのかな』『どういう意識でやっているのかな』って。(変えたことが)良い、悪いはこれからですけど、何を思って変えたのか。どうなりたかったから、そうしたのかとか。そこは気になりますよね」

打撃練習する栗原陵矢【写真:冨田成美】
打撃練習する栗原陵矢【写真:冨田成美】

 昨季は多くの試合でクリーンアップを組んだ5学年下の後輩。試合後の打撃練習でも多くの時間をともにし、栗原が苦しんでいた時にはアドバイスも送ってきた。日頃から見ることを続けてきたからこそ、ちょっとした変化にも気づくことができる。たぐいまれなる観察力の証だ。

 栗原自身も「振り方、バットの出し方っていうのは確かに変えてます」と打撃改造に取り組んでいることを明かした。山川と常に打撃議論を交わすことで、より打者としてのレベルアップを図るつもりだ。

 このオフでの自主トレではリチャード内野手を、キャンプに入ってからは育成の盛島稜大捕手を「門下生」として預かり、培ってきた技術や経験を惜しげもなく伝えている山川。後輩を育てることはもちろん、自身がより高みへ上る向上心も忘れてはいない。5度目の本塁打王、そして通算300本塁打を狙う今季も楽しみは増えていくばかりだ。

(長濱幸治 / Kouji Nagahama)