兄貴分の戦力外に涙も…前田悠伍が笑顔になれた報告「ずっと一緒にいられますね」

1軍広報の鍬原拓也さん(左)と前田悠伍【写真:竹村岳】
1軍広報の鍬原拓也さん(左)と前田悠伍【写真:竹村岳】

1年目のオフに受けた衝撃…「寂しい思いもありました」

 19歳の涙が笑顔へと変わった。昨シーズン限りで現役を引退した鍬原拓也さんは、今季から1軍広報としての業務を担っている。慣れないパソコンを使ってのメールのやりとりや、取材スケジュールを管理する日々が始まった。「毎日勉強です。早く慣れないといけないです」と、新しい仕事に向き合っている。

 鍬原広報が1軍担当になったことを誰よりも喜んだのが、前田悠伍投手だった。ルーキーイヤーの昨季は多くの時間を2軍で過ごした。その間に、右も左もわからなかった左腕の面倒を見てきたのが鍬原広報だ。同じドラフト1位の先輩。時には厳しい言葉をかけられることもあったが、愛情を感じることができたからこそ、素直に受け取ることができた。2人の関係はシーズンが終わりに近づいていくにつれ、深くなっていった。

 そんな鍬原広報が昨年10月28日に戦力外通告を受けた。もう会えなくなるかもしれない――。そんな思いを抱き、人知れず涙を流した前田悠。連絡をしたくても、かける言葉を見つけることができずにいた。そんな時に1通のメッセージが届く。「1軍の広報になるから」――。

「めちゃくちゃ安心しました。クワ(鍬原広報)さんから、広報になることが決まって連絡が来たんです。『キャンプ、お前はB組かC組やから、会う機会ないな。シーズン中も1軍こんへんから、会わへんな』みたいな話を冗談でされたので。『絶対1軍に行くので、一緒にやりましょう』って話をしました。クワさんらしいなって思いました」

 鍬原広報も「悠伍からは『ずっと一緒にいられますね』って返事が来ましたよ」と笑顔で明かす。照れ隠しもあり、冗談を言って後輩をからかったが、前田悠の返事からは今季にかける本気の思いが伝わったという。

「キャンプもA組です。開幕も1軍です。年俸は4500万です」

 オフシーズンに入ったばかりのタイミングだったが、早くも今季を見据える19歳の言葉に感心した。1月の自主トレではメジャーリーグで15勝を挙げた今永昇太投手(カブス)に弟子入りし、レベルアップを図ってきた。2月1日にスタートした春季キャンプでは、鍬原広報に宣言した通りにA組に抜擢された。立場は違っても、再び近くで成長を見ることができる。そのことが何よりも嬉しかった。

「違う球団でやるなら(グラウンドで)会えるかもしれないですけど、会える機会がほとんどなくなる選手もいるわけじゃないですか。厳しい世界だと思いましたし、自分もそうならないように活躍しないといけない。戦力外通告はいろんなことを考えさせられた時期だったので、寂しい思いもありました。自分ももっと頑張らないといけないなと思いました」

 こう語った前田悠。鍬原広報の戦力外は大きな衝撃だったが、今後のキャリアを見つめ直すきっかけにもなった。ルーキーイヤーの悔しさを持って臨む2年目。次は開幕1軍を目指す戦いが始まる。

(飯田航平 / Kohei Iida)