リチャードは「我慢してもらえる実績もない」 山川穂高が語る活躍の“絶対条件”

リチャード(左)と山川穂高【写真:冨田成美】
リチャード(左)と山川穂高【写真:冨田成美】

食事会場で2人だけの“フィードバック”…「毎回しています」

 自主トレに続き、宮崎春季キャンプ第1クールも“師弟”は一緒の時間を過ごした。山川穂高内野手とリチャード内野手は、初日から全体練習の開始前に球場へ到着し、午後6時ごろまで10時間近く共にトレーニングをこなした。今キャンプ一番の寒さとなった4日も集合前からメイン球場をランニング。2人の表情は明るい。

 山川が8学年も下の後輩にここまで親身になるのも、野球選手として大成してほしい一心からだ。「未来の主砲候補」として、周囲から大きな期待をかけられてきたリチャードも今季8年目。昨季の1軍出場は15試合にとどまった。背水の陣で臨んでいる弟子を一番近くで見ている山川は、巻き返しへの“絶対条件”を挙げた。

「ホークスは層が厚いですから。いくら必死に練習をしても、試合で能力を発揮できないとなかなか厳しい。リチャードはやっぱり、すぐに打たないと。実績がある人は年間を通して首脳陣に見てもらえますけど、(リチャードは)我慢してもらえる実績もないですからね」

“すぐに打つ”というのは、実戦で結果を残すということに他ならない。6日から始まる第2クールは、初日と4日目にフリー打撃で投手が登板する予定だ。その後も紅白戦、対外試合、オープン戦と実力を試される舞台は次々とやってくる。「今年のリチャードは違う」と思わせるためにも、スタートダッシュが最も重要になるというのが山川の持論だ。

 リチャードにとって山川は師であると同時に、試合に出場するためには超えなければならない“壁”だ。現状について山川は「バッティング練習は凄いですけど、全然(自分を)抜けないと思います」と競争相手として見てはいない。それでも可愛い後輩のため、グラウンド外でも協力を惜しむことはない。

 宿舎の食事会場が“フィードバック”の場となっている。一緒の席に座り、1日の振り返りをするのが2人のルーティンだ。「今日はこうだったね、ああだったねって。お前はこうなっているから、こうしたほうがいいよとか。バッティングの技術論も含めて、そういう話はリチャードに毎回しています」。山川は自らの時間を割いてでも、弟子の成長を引き出そうとしている。

 師匠の思いをリチャードもしっかりと受け止めている。「しっかりと頭を整理できる時間というか。例えば自分がすごく頑張ってやっていても、外から見ればそう見えない時だってある。もっと改善できるところがあるんだなと。いつも教えてもらっています」。客観的な言葉をもらうことで、自らの姿を冷静に捉えることができている。

「あまり疲れてはいないですけど、自主トレの時とは違いますね。やっぱり緊張感はあります」。リチャードはそう口にしながら、バットを手に屋内練習場へと走り出した。自身に向けた厳しい言葉だけでなく、しっかりと手も貸してくれる師匠の思いに応えたい――。山川のそばで1年間プレーし、“未来の主砲”の二つ名を返上してみせる。

(長濱幸治 / Kouji Nagahama)