山川穂高から「自主トレ一緒にやりましょうよ」 記者に“意地悪”な笑顔、試された根性

山川穂高【写真:竹村岳】
山川穂高【写真:竹村岳】

きっかけは昨年12月の出来事…「一緒にやりましょうよ」

 鷹フルは、山川穂高内野手のインタビューを3回にわたってお届けしてきました。昨季は34本塁打、99打点で打撃2冠に輝いた主砲。移籍1年目という重圧の中でリーグ優勝に貢献し、その注目度の高さはチームの中でも一際、高いものでした。なぜ鷹フルは、単独インタビューを行うことができたのか? 竹村岳記者の取材後記としてお送りします。きっかけは、少し“意地悪”な表情――。自主トレを「一緒にやりましょうよ」の一言でした。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 鷹フルとしては初の山川単独インタビュー。球団広報への折衝はもちろん、本人からも了承を得て実現したものだった。その経緯は昨年12月、山川とリチャード内野手の2人とゆっくり話をさせてもらう機会から始まった。シーズン中の苦悩や技術論だけではなく、2人はメディア側の話にまで耳を傾けてくれた。有意義な時間が流れる中で、一気に背筋が凍るような瞬間が訪れた。山川が語った自主トレの詳細。聞いているだけで身の毛もよだつ練習量に、目を見開いて驚いているところだった。山川がポツリと言った。「一緒にやりましょうよ」。

 当然、簡単にはうなずけない。しどろもどろしていると、山川はこちらの根性を試すかのように「それができたら、認めるかもしれないですよ」。そんな言葉で再び自主トレに誘ってくれた。表情は少々、意地悪にも見える……。覚悟には時間がかかったものの、「認める」という言葉が、記者として「挑戦してみたい」と思わせてくれたのは確かだ。

 山川は昨年11月から、愛弟子のリチャードと自主トレをともにしてきた。「“最新”から一番かけ離れた“原始的な練習”をしようというのがテーマでした」。この期間、重点的に鍛えている部位を問うと「全身ですけど、なんとなくです。なんとなくでいいんです」と言う。山川が明かしたのは、アーチをかけるために必要なトレーニングだ。

「バッティングって、どこの筋肉を使っているのかよくわからない。よくわからない練習をしようというのがモットーです。バットを持っている手から足の先まで全部を使っているわけなので。どこの筋肉と言われたら全部だと思います。頭の重みも使うので。それも含めると、1つの練習で1つの箇所だけ鍛えるという意識はなくて、1回で何十箇所も鍛えられるトレーニングが僕はいいと思っている。僕はこのやり方で、この実績を積んできたので」

 昨シーズンは34発を放ち、移籍1年目でタイトルを掴んだ。「去年の最後の方は、しっかりと(打席で)しゃがむことで目線が変わらずにバランスよく振れるようになった。上体、膝を落として、その目線のまま振るというのは意識しています」と語る。一方で「あまりフォームを固めるとか、僕の経験上はそんなことをしなくていい。体の端から端まで動かして、とにかくスイングスピードが絶対に落ちないようにするのが1つのモットーです」と表現した。全身に刺激を入れながら、フィジカルを徹底的に鍛え上げるのが山川のやり方だ。

「僕12年目になるんですけど、この自主トレで意識していることって9月、10月にはまるで変わっているので。毎年のことですけど、1年間を戦う体というのは、ある種、無理をしないことも大事。無理をしちゃうと、バチってなってしまう。力を入れたり抜いたりする練習。なんとなく、やっています。なんとなくでいいと思います」

自主トレを公開したリチャード、山川穂高、西武・山野辺翔(左から)【写真:竹村岳】
自主トレを公開したリチャード、山川穂高、西武・山野辺翔(左から)【写真:竹村岳】

 筆者自ら自主トレへの参加を決めたからには情けない姿は見せられない――。自分なりにトレーニングも重ねた。自主トレ公開が行われた2日後の1月22日、練習に参加させてもらった。「鷹フルで記者をさせていただいています。本日はよろしくお願いします!」。時刻は午前9時前。まずは、股を開いて腰を落とす。この状態を10分間キープ。次は足を肩幅ほどに開き、ふくらはぎを温めるためにその場で細かくジャンプすること5分間。一番キツかったのは「プランク」と呼ばれる体幹メニュー。これも5分間と、1つ1つのトレーニングは長くないが、どれもが濃密な内容だった。

 山川の自主トレには独立リーグの選手も参加しており、記者が入らせてもらったのは「ボールを使うメニュー」まで。キャッチボールが始まってからは邪魔にならないように、撮影などに時間を費やした。翌日は当然、全身が筋肉痛。特に上半身がバキバキで、上腕二頭筋や三頭筋、背中に肩周りなどが満遍なく張っていた。山川が言う「体の端から端まで使う」ということをほんの少しだけ、身を持って経験させてもらった。

 山川はホームランを自分の「生きざま」だという。通算252本塁打を誇り、4度のタイトルを経験した。プロ12年目になる2025年も、その矜持は何も変わらない。

「毎年毎年、試行錯誤はしていますし。うまくいく年もあれば、そうじゃなかった年もある。いろんなことを重ねても、やっぱりホームランというのは素晴らしいものだと思うので。それしかできないですしね。ヒットを打てって言っても、コンちゃん(近藤健介外野手)みたいにうまく打てないし。(現役を終える)最後の最後まで、このスタイルでやっていこうと思っています」

 プロ野球選手の貴重な時間をいただいたこと、この場を借りて御礼申し上げたい。本当にありがとうございました。来年も、ぜひインタビューをさせていただきたい。あんなにもキツいトレーニングに参加するための覚悟を決めるのには、きっと時間がかかるが……。「一緒にやりましょうよ」。意地悪な笑顔が忘れられないが、やっぱり、山川穂高に認めてもらいたい。

(竹村岳 / Gaku Takemura)