鷹フルの単独インタビュー…中村晃と松田宣浩から感じさせられた“悟り”
強烈な思いを口にした。二塁に誰よりもこだわってきた男の偽りのない思いだ。「正直、試合に出ないことには始まらない」。ソフトバンクの牧原大成内野手が、鷹フルの単独インタビューに応じた。「去年の晃さんを見ていたら……」。中村晃外野手の姿から、自らのキャリアに対する危機感を抱いていた。
2022年は中堅としても出場を重ね、規定打席には2打席届かなかったものの打率.301を記録。通算610安打で、2023年3月のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)では世界一を経験した。同年オフに就任した小久保裕紀監督に訴えたのは、二塁で勝負がしたいという気持ち。ユーティリティプレーヤーとして、かつては「ジョーカー」と呼ばれた男が退路を断った瞬間だった。
結果的に2024年は78試合に出場。右脇腹を痛めて2か月半の離脱を経験するなど、チームはリーグ優勝しながらも悔しさを味わうシーズンとなった。「1年間、戦ったことがないので、数字(の目標)と言われても見えてこない。まずはしっかりと1軍で試合に出続けることを目標にしたいです」。離脱さえしなければ、自分は戦える――。言葉の節々から、自信が伝わってくる。
牧原大は今年10月に33歳を迎える。プロ15年目、3年契約の2年目という位置付けで「僕はセカンドって言っていますけど『どこかをやれ』って言われたらやりますし。もう若くないから、出られる機会は減ってくると思います」。チャンスを与えられる年齢ではないことを痛烈に自覚している。競争に敗れれば、立場はどんどんと追い込まれていくだけだ。そして、こう付け加えた。「そういう時期が、いずれは来る。去年の晃さんを見て、そう思いました」――。
3歳上の背番号7は昨シーズン、山川穂高内野手らの加入により主に代打として役割を与えられた。打率.221でシーズンを終え、家族には「辞めようかな」と現役引退の考えを打ち明けるほど、苦しい1年を過ごした。横目で見ていた牧原大も「余裕はないですよ」と、自分を重ねる。先輩たちと日々、やり取りをする中で感じたのは、積み上げてきたものに対するある種の“迷い”だった。
「あんなすごい技術を持っている人。僕らはそのレベルになってもいないのに、晃さんがバッティングの話を僕に聞いてきたりした時に、思いましたね。『こうした方がいいかな?』って聞かれた時に、この人たちでも自分の中で悟っているのかなって、感じるものはありました。松田(宣浩)さんも、そうだったので」
このオフの自主トレはグアムと福岡・小郡市で行っている。トレーナーに毎日来てもらっているのも、自分自身の変化を感じているから。「本当、治療とかもしてこなかったので。がむしゃらにやってきたので、その代償が今になってきているのかなと。怪我も多くなって、体がついてこなくなってきている」。身長172センチと決して大柄ではない体で戦ってきた。どれだけ経験しても「怪我をしたからといって、手を抜いたりはしませんし、全力プレーがなくなったら自分じゃない」と、話してきたが、少しずつ価値観に変化が生まれてきた。
「試合は全力でやりますけど、練習から全力は出せなくなってきている。練習と試合は分けたくなかったんですけど、そうしないと持たないです。それは体力とか、じゃないんです。冗談なしに、(今の自主トレで)若い子を引き連れてやっていますけど、正直1人で良かったかなって思っています」
本拠地開催の試合では、牧原大は誰よりも早くグラウンドに姿を見せる。「僕の場合は練習からやっておかないと不安なので」と、準備の段階から手を抜かずに、今の地位を築き上げた。一方で、年齢を重ねていることは確実に体にも表れている。「正直、練習の量はできなくなってきている。打てる、打てないとか、レギュラーを取れる、取れないの不安は全くないんです。怪我のことしか考えていない」。自分の技術に対する疑いは、全くない。33歳となる2025年、ここで花を咲かせなければ“先”は長くないと、誰よりも自覚しているのが牧原大だった。
本気で現役引退を考えた中村晃から、迷いを感じ取った。牧原大も自分自身に対して、キャリアの“終わり”を意識するようになった。一方で「僕は(他の選手には)聞かないですね」と、姿を重ねることはない。積み上げてきたものだけを信じて、もう1度、勝負する。
「自分がやってきたことを間違いだと思っていないですし、それを曲げてしまったら今までやってきたことが何だったんだと、なってしまう。15年もできると思っていなかった。ここから伸びていくことは難しいので、自分がやってきたことを貫いていけたら」
誰よりも強い覚悟を胸に、毎年のように感じてきた。今、ここでレギュラーにならなければならない。
(竹村岳 / Gaku Takemura)