「そのレベルじゃない」…忘れられない“叱責” 大山凌が胸に刻む教訓「今年は泣かない」

キャンプインに向けて筑後で1人、自主トレに励む大山凌【写真:冨田成美】
キャンプインに向けて筑後で1人、自主トレに励む大山凌【写真:冨田成美】

大山が呼ばれたベンチ裏…「求めてるのはそこじゃないから」

 厳しい視線は、期待の現れでもあった。2年目を迎える大山凌投手はキャンプインに向けて筑後で1人、自主トレに励んでいる。ホークスは今オフ、上沢直之投手や浜口遥大投手ら投手4人を相次いで獲得。新加入した投手は全員が先発としての期待をかけられており、激しい先発ローテ争いが予想される。中継ぎ陣も昨年同様に盤石な体制が敷かれる中で、大山はどのポジションで今季を戦うのだろうか。

「若い中継ぎ投手だったら、これからは2イニングは投げられないといけないって言われていたんですけど。僕は倉野さんから『2イニングじゃなくて3イニングを投げられるようになってほしい。みんなの上を行け』って言われました」。倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)から通達されているのは、複数イニングを任せることができる、いわゆる“中ロング”としての役割だ。

「状況によっては先発に戻ることもあるみたいなので。去年の石川(柊太投手)さんのポジション的な感じだと思います」。ルーキーイヤーの昨季は18試合に登板し、そのうち2試合で先発登板した。1勝1敗1ホールド、防御率3.25の成績。今季はそれ以上の活躍を期待されていることは大山自身も自覚している。そんな中で右腕が口にしたのは、昨季の“ある出来事”だった。「『お前に求めてるのはそこじゃないから』って。ガチの口調で言われました」――。

「大山、ちょっと来い」

 中継ぎで1イニングを投げ終え、ベンチに戻ってきたばかりの右腕に声をかけたのが倉野コーチだった。普段であれば横に座り、声をかけることがほとんどだが、この日は違った。ベンチ裏に呼び出された大山は、マウンドでの姿勢を“叱責”された。「お前はそのレベルじゃない。(力を)抜いて抑えられるようなレベルじゃない。もう1イニング行くから、次はしっかり腕を振って投げてこい」。厳しい口調で伝えられた。

「いつの試合だったのかは覚えていないんですけど……。僕が(打者に)合わせて投げていたというか、うまく投げようとしていたように見えたみたいで……。その次のイニングはめちゃくちゃ腕を振って投げましたよ。ブリブリに投げました」

 今振り返ると、大山自身にも思い当たる部分はあった。「6月ぐらいに1軍に上がって、実質3か月ぐらいしか持たなかったってことです。9月くらいから調子が落ちてきたので」。体力面の不安が頭の片隅にあったのか、無意識のうちに“かわす”ピッチングになってしまっていた。「迫力がなかったんだと思います」。すぐに倉野コーチに見透かされて、厳しい言葉が投げかけられた。この出来事は2年目を迎える中で、大きな教訓になった。

「体力も含めて技術だと思うんです。みんな疲れてくる中で、体もピッチングもまとめられるかですよね。体力があっても技術がないとダメだし。ピッチングに対しての考え方も、全部技術だと思います。マウンド上でも考えすぎるタイプなので、それも技術でカバーできるかですよね」

 2024年9月4日の日本ハム戦(みずほPayPayドーム)も、大山の中で印象に残る試合だった。9回に登板するも3失点を喫し、降板後には悔しさを堪えきれずにベンチで涙を流した。「大山もう泣かんでいい」。励ましの言葉をかけてくれたのも倉野コーチだった。「今年はもう泣かないっす! 今年こそですよ」。2月には家族も増える。多くの人の思いを背負い、シーズンを走り抜ける。

(飯田航平 / Kohei Iida)