入団交渉の舞台裏…上沢直之を落とした“口説き文句” 揺れる胸中を掴む「掌握術」

ソフトバンク・上沢直之【写真:竹村岳】
ソフトバンク・上沢直之【写真:竹村岳】

「ホークスは世界一の球団を目指していると三笠さんから言っていただいた」

 揺れる心を、真っすぐな言葉で掴んだ。絶対的な方針に惹かれて、実績のある選手がホークスを選んでくれた。ソフトバンクは26日、福岡市内のホテルで上沢直之投手の入団会見を行った。日本ハムで12年間プレーし、昨オフにポスティングシステムを利用して米大リーグに挑戦。日本球界復帰となった中、入団交渉における舞台裏を三笠杉彦GMの言葉から紐解いていく。

 今年1月、レイズとマイナー契約を結んだが、オプトアウト(契約破棄)を行使してレッドソックスに移籍。4月28日にメジャー初昇格を果たし、2試合に登板して勝敗は付かなかった。5月以降は3Aウースターで過ごし、マイナーでは20試合登板で5勝4敗、防御率7.63だった。日本球界復帰を決めると、ホークスとの交渉が始まった。「熱意に、僕の心が打たれたのが一番です」と、入団の決め手を語った。

「契約交渉の場でもホークスは世界一の球団を目指していると三笠さんから言っていただいた。僕もその一員になれるように、日本一の戦力に必ずなれるように頑張っていきたいです」

 昨年12月、山川穂高内野手も入団会見で「三笠GMとお話した時の言葉で『絶対に優勝したい』『一緒に頑張りたい』『戦力になってください』と言ってもらえたことが、自分の心の中に強く刺さりました。それが一番の理由になります」と語っていた。編成のトップである三笠GMは、入団交渉においても必ず同席し、選手と膝を付き合わせる。2022年オフの近藤健介外野手も含めると、3年連続で実績ある選手を獲得することに成功した。いわゆる“口説き文句”において、どんなことを心掛けているのか。

「真っすぐに伝えることが大事だとは思います。あんまり考えてやっているわけではないですけどね」。特別な言葉を用意しているわけではない。その上で、交渉の席でも伝えるのはホークスにおける絶対的な指針だった。

「僕が、というよりはホークス全体がそうなんですけど、生え抜きとか外から来た選手とか関係なく、レベルが高く、いい野球をしたい、とにかく勝つっていうのを大事にしている球団ですので。『来てもらうのを楽しみに待っている』と、そういうことはよく伝えます」

 球団によっても、経営方針は全く違う。その点でいえば、ホークスは非常に明確だ。「目指せ世界一」というスローガンのもと、フロントもグラウンドも、力を合わせて突き進んできた。「山川くんも上沢くんも、外から入ってきた選手。チームが変わるのは不安だったと思うんですけど」。移籍先が決まるまでは、選手本人もきっとドキドキしている。自分はどれだけ評価されているのか――。胸中が揺れている中で、真っすぐな思いと、「目指せ世界一」という絶対的方針を伝える。それが、ホークスだからできる掌握術だ。

 三笠GMはこの日、会見の冒頭で上沢に対して「ホークスで活躍をしてくれると確信をしましたので。今回、積極的に交渉してきていただくことになりました」と表現していた。“確信”という力強い言葉。「意味はないです」と笑うが、三笠GMにとっても待望の獲得だったのだから、自然と口調は熱くなった。

「いい投手であるということに確信はありますよ。対戦している回数も多いし、今年はなかったですけど、1年で戻ってきましたから。2年、3年が経っているとスタイルも変わっている可能性もありますけど。そこは純粋に素晴らしい投手だと。それこそ小久保監督もそう思っているし、やっている選手もそう言っていた。僕の見立てというよりは、選手も口を揃えていたというところで、来てもらえたら必ず戦力になる。それが確信した理由です」

 近年では山川、近藤ら獲得した選手が後輩たちに技術を授けて、チーム内でも相乗効果が生まれている。チームを強くしていく上で「競争が大切」だと話してきた三笠GM。上沢獲得についても「近藤くん、山川くんから刺激を受けて練習に取り組む雰囲気になっている。投手も、外からきた投手とお互いに切磋琢磨しながら情報交換をしてくれたらいいなと思っています」と期待した。実績ある選手を揃えるだけではない。さまざまな角度、意味合いから補強を重ねるホークス。2025年もきっと、隙はない。

 上沢も「三笠さんと面談した時に、先発ローテに入って日本一の力になってほしいと強く言われたので、そこが大きな決め手でした」と力強く語った。米国から日本球界復帰を選択し「簡単な決断ではない」と、最後の最後まで悩み抜いた。通算70勝を挙げる右腕の心を射止めたのは、「日本一になりたい」という純粋な思いだった。

(竹村岳 / Gaku Takemura)