DeNA時代のチームメート…嶺井博希の記憶に刻まれているマウンドでの言葉
「意見ないんすか?」。お互いに“駆け出し”だった頃、厳しい言葉で突きつけられた。
ソフトバンクは12日、上茶谷大河投手の入団会見を行った。9日に行われた現役ドラフトで、DeNAからの移籍が決まった。横浜での6年間を「ドラフト1位で入らせてもらった。たくさんのサポートを受けながら、自分もなんとか貢献したいと思っていたんですけど、なかなかそういう結果には至らなかった。申し訳ない気持ちがあります」と振り返った。
2018年ドラフト1位でDeNAに入団した。東洋大時代には、甲斐野央投手ともチームメートだった。通算で121試合に登板して20勝23敗、防御率4.12という成績。「申し訳ない」という言葉で、6年間を振り返っていた。その一部を元同僚としてよく知っているのが、嶺井博希捕手だ。
上茶谷の移籍が決まり、すぐに連絡をしたという。明るいキャラクターは「甲斐野みたいです。あんな感じです」と代弁する。一方で「でも練習になると人が変わるし、試合になるとカッカしますね。いい意味で、ですよ。ガッと試合に入っていくので。普段はふざけていますけどね」と明かした。バッテリーを組んだことで、右腕の“負けん気”の強さを感じた出来事がある。
「マウンドに行って『何投げたい?』って聞いたんです。めっちゃ黙ったんですよ。試合が終わってベンチで、『嶺井さんの意見ないんすか』って言われました。『こっちは引っ張ってもらいたいし、あの時自分は嶺井さんが逃げているようにしか思いませんでした』って」
明確な時期は覚えていないそうだが、上茶谷が「1年目か2年目だったと思います」という。場所は横浜スタジアム。試合中にタイムをかけ、マウンドに考えを擦り合わせに行ったところ、意見が合わなかった。「カミチャも、不貞腐れていたとかじゃないですよ。『うーん』って考えているような感じでした」。投手らしさとも言える“我の強さ”を感じた出来事。「意見ないんすか」という言葉で、突きつけられた。
「『何してんすか』ってめっちゃ言ってくるんですけど、それでハッとさせられました。自分はどっちかというと、投手が投げたいボールを投げさせるのがいいと思っていたんですけど、そういうピッチャーもいるのかって。そう思っている投手にはしっかりと自分が引っ張らないといけないし。『そうやんな』って、発見というか引き出しが増えた感じがしましたね」
7勝を挙げたルーキーイヤーも、印象に残っているという。「ルーキーの時なんて全然噛み合わんくて、めっちゃサインに首を振られて、次からラミレス監督に組ませてもらえなかったですね」。胸に刻まれているのが、マツダスタジアムの広島戦。「(サビエル・)バティスタだったと思うんですけどね……」。少し記憶が曖昧だが、打席にスラッガーを迎えていたことは覚えている。結果的に外野フライに打ち取ったが、2人が思い描くプロセスは違っていた。
「確か(ラストボールは)真っすぐでした。僕は変化球のサインを出したんですけど。めっちゃ怒っていましたね(笑)。だから『相性悪いな、俺たち』ってずっと言っていたんですよ」
捕手なりに、相手のデータについても徹底的に準備をする。その上で、投手の手綱を取ることも仕事の1つだ。「でも、言ってくれてありがたいですし、投手が悩みながら投げるのは良くない。あっちが納得しながらできれば、こっちも納得しますから。当たり前のことなんですけどね」。嶺井にとっても、来季がプロ12年目になる。まだまだ若手だった時に上茶谷と出会っていたことが、自分の引き出しを増やし、キャリアを長くすることにも繋がっていたのかもしれない。
国内FAと現役ドラフト。形は違えど、ホークスで再びチームメートになった。「上茶谷にとってはチャンスだと思うし、違ったところで野球ができるのはいい経験になりますから。現役ドラフトでチームが変わったことを、チャンスだと思ってやってもらえたらいいんじゃないですか」。誰よりも“負けん気”の強さを知っている。必ず新天地で、その才能を一緒に開花させる。
(竹村岳 / Gaku Takemura)