リチャードが契約更改に臨んで保留…1軍で活躍できずにいるワケとは
才能を開花できずにいる若鷹はどうしたらいいのか。リチャード内野手に必要なのは、2軍で「もっと打つこと」だ。球団が語ったのは、単純な答えだった。
ソフトバンクのリチャード内野手が22日、みずほPayPayドームで契約更改交渉に臨み、サインを保留した。今季の推定年俸は1000万円。提示された金額が明かされることはなかったが、球団を通じて「球団からいただいた評価と期待に自分自身がハンコを押す覚悟が決まらなかった。ハンコを押す時は1年間やり通す覚悟で押したいので、もうちょっと考えたい」とコメントした。話し合った時間は、1時間を超えていた。
リチャードは今季1軍では15試合出場に終わったが、ウエスタン・リーグでは18本塁打を記録。5年連続で本塁打王を獲得した。この日、同じく契約更改のために本拠地を訪れた山川穂高内野手も「メジャーリーガーですよ。メジャーリーグの頂点に立てるポテンシャルです」とキッパリ言った。誰もが認めるほどの能力を持っている一方で、1軍の舞台では開花できずにいる。
来季が8年目となる大砲候補。球団はドライブ・ラインの導入や、最新鋭のピッチングマシンを取り入れ、選手に対して徹底的に科学的なアプローチを行っている。リチャードには今、何が必要なのか。三笠杉彦GMが、考えを述べた。「技術論はわからないですけど、端的に言えば、ウエスタン(・リーグ)でもっと打つこと」と切り出した。
「成績ではホームラン数というよりは率のところですよね。じゃあどうすれば率が上がるのかということですけど、その話は本人にもしました。うちのR&Dが(出した数値は)、ファームで平均すると1軍だと6分くらい率は下がる。例えばウエスタンで.300を打っていても、1軍で使っていたら.240くらいになりますから。ホームランが魅力ではあるんですけど、下で.230とかだと、1軍じゃ1割台になってしまう」
R&Dとは「リサーチアンドディベロップメント」の略称。来季からは明石健志氏も務める部門で、「動作解析」の観点から、野球選手の“感覚”を数値化していく。今季のリチャードは2軍で打率.242。三笠GMが話した通り「6分」をマイナスすれば、1軍では「.182」になってしまう計算だ。
リチャード自身、過去に「諦めました、三振しないことを。三振は“ハッピーセット”です、ホームランの」と語ったこともある。打撃そのものが小さくならないように、ある程度の凡退には割り切って、持ち味である長打力を生かそうとしてきた。一方で、1軍の最大目標は「勝利」。もし打率が2割を切ってしまうようなら「投高打低で難しい時代。抽象的に言えば1割台だと、毎日の戦いが重要な1軍で、継続した起用もかなり勇気がいる」と、三笠GMは言及していた。
現役ドラフトでは過去に大竹耕太郎投手が阪神へ、水谷瞬外野手が日本ハムに移籍した。大竹は2年連続で2桁勝利を挙げ、水谷もオールスターに選出されるほどブレークした。高い能力を開花させられずに、他球団で活躍してしまうのはホークスにとって歯がゆいものだろう。くすぶる若鷹の存在を踏まえ、三笠GMは球団の思いを代弁した。
「逆にいうと、他球団で活躍してくれると大変嬉しいです。やっている選手は大変だと思いますけど、我々はプロ野球で活躍できる選手をたくさん育てることが、チームが強くなるんだと思っています。そういう環境を作っていきたいけど、(出場するには)席に限りがある。他球団で活躍してくれたら、僕らの育成環境が間違っていないというか。我々はそういう選手を育てることを目指しているわけですから」
球界では初めて4軍制を新設するなど、独自の育成路線を走ってきた。手塩をかけた選手が活躍するのは、ホークスにとってもある種の証明になると、三笠GMは受け取っていた。「それはもちろん、水谷くんに打たれたりしたら悔しいですけどね」と笑うものの、1軍の選手層が厚いのも事実。小さなきっかけを見逃すことなく、なんとかブレークしてほしいというのも球団の本音だろう。
リチャード本人は「いろんな思いがある。僕も話すのが上手な方ではないので……」とだけ語った。山川は、愛弟子の現状に「出る場所がない」と断言していた。今季の現役ドラフトは12月9日に行われる。これから先、どんな形で才能は花開くのか。
(竹村岳 / Gaku Takemura)