打率4割超でも「僕の番じゃないのか」 次々と昇格するライバル…柳町達の“折れかけた心”

ソフトバンク・柳町達【写真:冨田成美】
ソフトバンク・柳町達【写真:冨田成美】

鷹フルの単独インタビュー…柳町が振り返る「苦しかった時期」

 鷹フルがお送りする柳町達外野手の単独インタビュー。今回は激動の今シーズンを振り返ってもらいました。開幕を2軍で迎えた時の心境とは? 「何かひとつ集中できていないっていうところは、何日かはあった」――。今だから話せるシーズン序盤の思いを赤裸々に語りました。

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「色々ありましたけど、優勝の輪の中に入れたシーズンだったので。それはすごくよかったのかなと思います」

 今季は73試合に出場し、打率.269、4本塁打、40打点の成績を残した。柳町が言う「色々ありました」とは、シーズン開幕から5月28日に1軍昇格するまで、過ごしてきた2軍での日々のことだ。小久保裕紀監督からは「4割打ってこい」と伝えられ、その言葉の通りに4割を超える打率をキープしていた時期もあった。ボールの見逃し方ひとつをとっても、見極めが早く、甘い球だけを確実に捉える姿が印象的だった。それでも、なかなか1軍から声はかからなかった。当時の心境を明かす。

「僕を使ってくれという気持ちも、もちろんありました。でも、それも難しいんですよね。チーム状況とかもありますし。それこそ僕が打っている時期は1軍がすごく勝っていたり、状態が良かったりだったので。呼ばれなくても仕方ないのかなとも思いつつ……。でも、やるべきことはやっておこうとは思っていましたね」

 2軍では40試合に出場し、打率.333、1本塁打、17打点ときっちり結果を残した。それでも冷静に振り返れば、いくら好調を維持できていたとしても、1軍のスタメンで出場するまでには至らないと感じていた。「スタート(先発)で出たいので、守備や走塁もどんどん磨いていかないといけない」。開幕直後にこう語っていた柳町は、どこか晴れない表情で日々を送っていた。

「僕よりも成績が悪い選手が(1軍に)上がっていくのを見ると、どんどん『僕の番じゃないのか』って悲観するようになってしまって……。ちょっとだけ気持ちが折れそうになった時期もありました。うまく切り替えられたのは、すごく自分自身にとってもいい経験をしたなって思います」

 チームの状況によって、必要とされる選手が変わる世界。「筑後に行きたくないなっていうことはあまりなかったですけど、ちょっと気持ちが入らなかったり、試合で打っても、(1軍に)上がれないのかなとか思うと、ちょっとマイナスな気持ちというか……。何かひとつ集中できていないっていうところは、何日かはあったかなと思いますね」。モチベーションを保つことが難しいと感じる時も続いたと、赤裸々に語る。

「やってやるぞとか、頑張ろうとか思う気持ちがちょっと薄れるじゃないですけど……。ただ野球をやるというわけではないですけど、そういうもどかしい気持ちが1週間くらい続いた時期もあったなと、今は思いますね」

 自宅と筑後を往復する時間は、車で音楽を聴きながら過ごした。「そんなに深いことは考えなかったですね。運転きついなと思いながら」。1人の時間はリラックスして過ごすことができたという。家に帰れば、妻と子どもが柳町の苦しい時期の支えとなった。

 昨シーズンに記録した116試合の出場には届かなかったが、キャリアハイを更新すること以上に大事なことを掴んだ1年になった。優勝マジックを「2」に減らした9月21日の楽天戦(みずほPayPayドーム)では、逆転サヨナラの2点適時三塁打を放つなど、終わってみれば、随所に見せる勝負強さが光るシーズンになった。

「やっぱり辛い時期というか、2軍暮らしでなかなか上がれないっていう時期から、めげずに気持ちを切ることなくやりきれた。そのおかげで、それこそ優勝の場面に立ち会えましたし。やっぱりサヨナラ打だったり、苦しい時に1本を打つっていうことがこのシーズンはできたので」

 来季も外野手争いは激化するだろうが、もちろんレギュラーを獲りにいく。「そういう苦しい経験を乗り越えたっていうのは、すごく自信に繋がったなと思います」。柳町らしく、爽やかな笑顔でこう語った。今季の悔しい思いを胸に、2025年のシーズンに向けて今日もバットを振り込む。

(飯田航平 / Kohei Iida)