祝勝会は個室ごとに選手が集まり、和田はそれぞれの部屋を訪れ、チームメートに引退の決断を明かした。「絶対に辞めんでくださいよ!」。そう“懇願”したという柳田。当事者たちの声により当日のシーンがよみがえる——。
「誰にも言っていなかったし、お酒も入っていたからだと思いますけど、(柳田が)『うぇーーっ!!』って。でも、あれだけ驚いてくれたことはめちゃくちゃ嬉しかったですね。ギータもこれでチーム最年長になるので、『頼んだよ』って言ったら、『辞めんでください』って。『僕、最年長になるじゃないですか。和田さん、絶対に辞めんでくださいよ』って言ってましたね」
柳田の絶叫は、別の個室にいた岩井俊介投手の耳にもしっかりと届いていたという。「普通にご飯を食べていたら、急に別の部屋からバカでかい『えーっ!』っていう声が聞こえて。これギーさんやなって。なんかあったんかなと思っていたら、和田さんが入ってきて『今年で辞めるわ』って。それでギーさんが言ってたんやって……」。右腕の“証言”からも、衝撃は伝わってきた。
「辞めんでくださいよ」は、柳田らしい冗談めいた言葉かと思えた。しかし、柳田にとっては偽りのない本心だった。
「びっくりしたし、めちゃくちゃ寂しいっすよ。昔から有名な選手なんで。もちろんずっと見ていたし、ゲームとかでもめっちゃ使ってる選手なんで。そういう選手と一緒に野球ができて、貴重な経験をさせてもらったので……」。今や球界を代表するスーパースターの柳田にとってもあこがれの存在だった。さらに続けたのは、和田の背中の大きさだった。
「僕がリハビリにいた時に和田さんが練習する姿を見ていて、すごく勉強になりましたし。長く現役を続けられてきた方が、どういう姿勢で野球に向き合っていたか、そういうのはずっと見てたので」。自身の野球人生にも大きな影響を与えた存在だった。
最年長のバトンを渡した和田が、柳田にメッセージを送った。「チーム最年長、頼んだよって。うん、本当にそれだけです」。長年にわたってチームを支えた2人の間にある絆。ホークスの顔から顔へ——。22年間、左腕を振り続けた大ベテランの“魂”は受け継がれていく。