「僕が見ている感じだと、どう考えても今じゃ無理なので」。プロ野球は競争の世界だから、「いいやつ」なだけでは生き残ってはいけない。後輩を思うからこそ、心からのメッセージだった。
今季からホークスに加入した山川穂高内野手は全143試合に4番として出場し、34本塁打、99打点の2冠に輝いた。新天地での重圧を力に変え、チームをリーグ優勝に導いた。そんな主砲が「だって、出る場所ないですよね」とキッパリ言うのが、愛弟子でもあるリチャード内野手についてだった。
リチャードは7年目の今シーズン、15試合に出場して打率.226、0本塁打、1打点に終わった。ウエスタン・リーグでは5年連続で本塁打王を獲得するなど、長打力という最大の武器を持っている。4月30日に昇格し、6月3日に降格。1軍にいたのも、およそ1か月にとどまった。球場入りから山川と行動を共にし、試合までの準備などを「全部真似」して、少しでもヒントを得ようとしていた。
自主トレをともにしてきた愛弟子の存在。山川の目線から、リチャードはどんなふうに見えていたのか。「うーん……。まあ、あの、あれですよね」。言葉を選びながらも、鋭く切り出した。
「6、7年前から知っているので、その時に比べるとものすごく成長はしたなと。当時に比べると、野球に対する意識も高い状態にある。ここ(7年目)にきて1軍と2軍の間にいる人間なので、自分が何をすべきかというのもだんだんわかってきていると思います」
同じ沖縄県出身。若かりし頃から自主トレをともにした後輩については、能力だけではなく性格面も知り尽くしてきた。チームメートになったからこそ、新しく見えた一面もあった。常にマイペースで、先輩にも後輩にも愛されるリチャードの人柄。競争の世界において山川は、「野球選手やスポーツ選手って、まさに争いの最中にいなければならないと僕は思うんです。その争いの中で、自分や相手、そして重圧とも日々戦い続けていないといけない」。その表現は、愛弟子がくすぶっている理由にも繋がっていた。
「それ(日々の戦い)に打ち勝ってきた人間が結果を出せる。リチャードの場合は、そういうのがあまり好きじゃないんでしょうね。人と、争いたくないんでしょうね。それって“いいやつ”じゃないですか。人間、誰しも毎日喧嘩をしたい人もいないでしょう。より平和に物事が進むなら。リチャードの場合は、1軍で活躍したいというより、1軍で僕と一緒にやりたいんじゃないですかね。それをモチベーションに頑張ってくれるならいいですけど、僕とは違いますよね。僕はどんなことであれ、自分が一番になりたいと思いながらやってきたので」
誰かがグラウンドに立てば、誰かがベンチに座る。レギュラーになりたいのなら、スタメンで出ている選手から“椅子”を奪わなければならない。山川も「僕だって西武の時、最初は(エルネスト・)メヒアがいました」と振り返る。2014年に本塁打王を獲得した助っ人との争いを制したことで、自分の地位を築いた。「僕はメヒアに勝って試合に出ましたけど。ホークスでも、僕が出ていたら誰かが出られない。そういう中で、プロ野球はやっていかないといけない」という。
ポジションを“奪う”という明確な意思がなければならない。リチャードに足りないのは、そこ――。「その辺も、昔よりは良くなっていますよ」。プロ野球において“いいやつ”であることは、「結果には直結しないんじゃないですかね。僕にとっての『良い』は、誰かの『悪い』ですからね。僕がホームランを打てば嬉しいですけど、投手にとっては最悪であって。そういうものですから」。そして、核心をついた。
「僕がいたらリチャードは出られないですからね。サードでも、栗原に勝たないと出られない。DHだったらギータさんとか、ああいう人に勝たないといけないじゃないですか。だって、出る場所ないですよね。だから、厳しい戦いの中にはいるんですよね」
誰よりも冷静に、チームの戦力図を見据えていた。厳しく続ける。
「僕が見ている感じだと、どう考えても、今じゃ無理なので。それはなぜかというと、ホークスの選手層が厚いからです。でもそれは、リチャードに限った話じゃないです。井上(朋也)とか、石塚(綜一郎)とか。嶺井(博希)も、今年はずっと1軍にいなかったわけですし。ホークスは“そういうチーム”でしょう」
端的ながらも、鋭い言葉だった。柳田や栗原に勝つための強い思いが必要になる。絶対に自分のポジションを譲らないという山川の自信も溢れていた。試合に出たいのなら、他の選手に勝ち、奪うしかない。