偉大な先輩から得たものは「全て」――。東浜巨投手の印象に最も強く残っているのは、左腕の“ストイック”さだった。和田毅投手の引退会見が行われた5日。花束の贈呈には周東佑京内野手が最初に登場し、感謝の思いを伝えた。その後、一気に7選手が現れ、かわるがわるに花束を手渡した。その中の1人が、東浜だった。
直接伝えられた“引退”に驚きを隠せなかった。振り返ると、いい思い出ばかりが蘇る。右腕の胸に強く刻まれているのは、和田の貪欲な姿勢だった。常勝軍団を支え続けてきた左腕と共に過ごしてきた時間の中で、学んだものを明かした。
「もう全てですよね。グラウンドに来て練習する姿もそうですし、何気ない会話の中でもそう。僕たちの中では“生きる教本”じゃないですけど、こういう選手になりたいなって思わせてくれる。目標になる選手でしたね」
今季で12年目のシーズンを終えた東浜。2017年には最多勝のタイトルを獲得し、2022年にはノーヒットノーランを達成した。和田と共に日本一も経験した右腕。「もう本当に、何から何までお世話になりました。今こうやって僕がやれているのは和田さんのおかげだと思いますし、存在自体がチームにとって偉大な人だったなと思います」と、寂しさを口にした。
過ごした時間も当然多い。「プライベートでもよく食事に連れて行ってもらって、ご飯を食べながらいろんな話もしました」。会話の1つ1つが、多くの学びを与えてくれた。思い出すことができるエピソードはいくつもあるが、最も印象に残っていることがあった。
「優勝を分かち合えたのもそうですけど……。和田さんがリハビリされていた時の姿ですね。僕もちょうどリハビリにいたときに見ていました。肩が苦しい中で取り組む姿もそうですし、一切泣き言を口にされなかった。ストイックだなと思いながら。そこが一番、僕の中で印象に残ってます。いい姿というか、いい思い出の方が多いんですけど、そういったことも含めて『こういう人になりたいな』と思いました」
数えきれないほど言葉を交わしてきた。それでも東浜の心に刻まれたのは、復帰を目指して黙々と汗を流していた“姿”だった。歯を食いしばりながらリハビリに励む背中が、今も焼き付いている。
「なかなか状態が上がらずに苦しんでいる姿も見ていました。でも、それを頑張って乗り越えて、バリバリ投げて抑えていたことは全ての選手の励みになったと思います。1軍でやっている人もそうですし、まだ経験したことがない若手もそうです。大怪我をしていた選手にとっても、全ての人にとっていい教本になる。そんな姿だったなと思います」
22年という果てしなく長い現役生活を終えた43歳左腕。人生の半分をプロ野球選手として生きてきた。「自分がここからあと10年って考えると、本当にすごい時間を過ごしてこられたんだなって。僕らでは想像できない数字ですし、本当に尊敬しかないです。僕もそのくらいまでできたらいいですよね」。12年目のシーズンが終わり、多くの出会いと別れを繰り返してきた。「もっと一緒にやりたかったっていうのが正直な気持ちです」。和田毅という大投手から学んだものは大きかった。