9月22日の楽天戦でプロ初本塁打…上林誠知からもらったバットで「1本しかない」
札幌遠征から福岡に戻ると、川村友斗外野手のロッカーには2本の真新しいバットが届いていた。差出人の欄には「上林誠知」――。尊敬する先輩にもらった大切なバットだ。
今季88試合に出場し、打率.268、1本塁打、14打点をマークした川村。主に守備固めとしてグラウンドに送り出されることが多かった中で、打席に立てば必死に結果を残そうとした。初本塁打を記録したのが、9月22日の楽天戦(みずほPayPayドーム)。力強く振り抜いた打球は右中間席に着弾し、チームの勝利に貢献。優勝へのマジックナンバーを「1」に減らした一戦で、貴重なアーチとなった。
待望のプロ初アーチは、“ある人”に譲ってもらったバットから生まれた。その人物は昨オフにホークスを戦力外となり、今季から中日でプレーしている上林誠知外野手だった。「2軍の名古屋遠征でたまたま話す機会があったので。『バットをください』とお願いしました。1本しかないので、折れないようにしたいと思います」と明かしていた。その後も使い続けていたが、実は1度、折れてしまった。9月29日の日本ハム戦(エスコンフィールド)。9回2死満塁で三ゴロに倒れた際、内角球に詰まってグリップ付近から砕けた。
上林から譲り受け、愛用していた大切な1本。その後はどうなったのか。
「こういうバットを(自身が愛用するメーカーの)SSKで作りたいなって思っていたんです。(上林さんに)『2本くらい送っていただけませんか』ってお願いして。福岡に帰ってきたら、ロッカーにありました」
札幌遠征から戻ると、本拠地のロッカーに新しい2本が届いていた。バットを折ってしまった瞬間については、「必死に走っていましたし、内野安打を取ろうとしていた。リクエストまでしてもらったので」と、気にする余裕はなかったという。その後すぐに上林とやり取りをしていただけに「明日には届いているかな」と、楽しみにしながら福岡に帰ってきたという。
同じ右投げ左打ちの外野手。「そりゃあ、テレビで見ていた選手ですよ」と、入団した時から憧れた先輩の1人だった。2023年はホークスの2軍でともに過ごす時間が長かった。「結構話もしますし、誠知さんの弟が東北福祉大にいて、僕も仙台大で一緒のリーグだったので。そんな繋がりはありました。めっちゃ良くしてもらった先輩です!」という。外野手として同じメニューをこなしていると、自然と交わす言葉も多くなっていた。
上林が戦力外になった昨年10月、川村はプエルトリコで行われたウインター・リーグに参加しており、ちゃんとした挨拶もできずに別れが訪れてしまった。今年6月の交流戦で再会したが、上林は多くの選手と言葉を交わしていただけに、「そんなに話ができなかったんですよ」という。それから3か月後の9月、2軍の名古屋遠征で再び顔を合わせた2人。ずっとカッコいいと思っていた先輩のバットを譲ってもらった際のやり取りを、川村はなぜか小声で明かした。
「すみません! バットください!」
「なんでよ」
「お願いします! ください!」
気前よくプレゼントしてくれる上林も、やはり粋な男だ。おねだりした理由は憧れだけではなかった。「タイカップのバットを使ってみたかったんです。誠知さんがそれを使っているのも知っていたので」。黒色とオレンジ色のデザインも「カッコいいじゃないですか。そんな理由もありました」。端的なところも川村らしかった。
現在行われている日本シリーズでは2試合に出場しているものの、打席はまだない。上林は2018年、広島との頂上決戦で本塁打を記録した。「誠知さんはマジでカッコいいっす」。大切なバットを使って、チームを救う一打を見せたい。
(竹村岳 / Gaku Takemura)