トイレで号泣…「1時間いました」 岩井俊介が隠した涙、気づいていた同期の大山凌

ソフトバンク・岩井俊介【写真:竹村岳】
ソフトバンク・岩井俊介【写真:竹村岳】

ロッカーに残っていた同期の荷物…「俊介?」

 涙に気づいたのは同期だった。今シーズンの終盤戦、中継ぎ投手陣の度重なる怪我があった。その中で、ルーキーながらに勝ち場面で登板するなど、存在感を見せたのが、岩井俊介投手と大山凌投手だった。

 リーグ優勝を決めた後に行われた9月28日の日本ハム戦(エスコンフィールド)。1点リードで迎えた9回のマウンドに上がったのが岩井だった。先頭の淺間を三振に斬ったが、次打者の水野に同点本塁打を浴びた。その後、1死満塁からマルティネスに右前にぽとりと落ちるサヨナラ打を打たれ、岩井は敗戦投手になった。

 海野隆司捕手に連れられるように、天を仰いぎながら自陣に戻った。「負けて、打たれて、そのままベンチに帰ったら、ちょっとなんか気まずいから……」。岩井がすぐに向かったのは、ベンチ裏にあるトイレだった。

「1時間くらいいました。ユニフォームは着たまま、帽子もかぶったままトイレに入りました。野手はバスで全員帰っていて、ピッチャーでウエートする人はタクシーで帰ることになっていたんです。1時間くらい経って、『うわーこれ俺1人やな、やばいな』みたいになって。そう思っていたら、大山が『俊介?』て呼びにきてくれたんですよ。分かっていたのかは知らないんですけど」

 悔しさのあまり流れてきた大粒の涙。周りに悟られないように、誰にも見られないようにトイレに駆け込んだつもりだったが、大山は知っていた。「トイレに勢いよく入っていったっていうのを聞いたんですよ。自分はウエートをしていて、最後に見回ったときに、俊介の荷物あるじゃんって思って。じゃあまだトイレにいるのかなと思って行ってみたら、ちゃんと個室が1個閉まっていたので。『俊介?』って言ったら、『はぁい』って。聞いたことない声でした」。力のない返事。すぐに出てきた岩井の目は真っ赤だった。

 個室から出ても、膝に手をつき、うつむいていた。「バーンってやって帰りました」。言葉をかけることはなく、同期の背中を勢いよく叩いた。「予想通りでしたよ。相当きてたんだろうなって思ってたら、案の定でした」と、大山は振り返る。自身も悔し涙を流した経験があったからこそ思いは伝わってきた。

 マルティネスに許してしまったサヨナラ打。岩井も「やばい……。みたいな。その情景が何回も浮かびました。後悔です」と振り返るしかない。1時間も閉じこもっていたトイレでは打たれたシーンが何度も頭をよぎった。何度も悔しい思いをして、涙したのも1度や2度ではない。それでも「あれが1番悔しかった」と、即答するほどの出来事だった。

 さまざまな試練を乗り越えて、岩井はルーキーでただ1人、日本シリーズのメンバーに選ばれた。「いろんなシチュエーションだったり、いろんな経験させてもらっているので。気持ち的にも、経験値的にも上がってきたなと思います」と、自信をのぞかせるだけの実力もつけてきた。

「大山とずっと一緒にやりたかったです。ルーキー1人は寂しさもありますけど、1人だけ選ばれているっていう嬉しさもあります」。2人で駆け抜けた1年目のシーズン。「涙の数だけ強くなれるように」。最後にこう語り、聞いたこのあるフレーズに大笑いした岩井。明るいキャラの中に、たくましさも感じられた。

(飯田航平 / Kohei Iida)