川瀬晃が有原航平にかけた言葉「守ってやると…」 美技を生んだ“直前の声掛け”

マウンド上のソフトバンク・有原航平(右)に声をかける川瀬晃【写真:冨田成美】
マウンド上のソフトバンク・有原航平(右)に声をかける川瀬晃【写真:冨田成美】

有原の腰に手を当てながら声をかけた川瀬「あそこは単純な…」

 何事にも経緯と理由がある。エースを、そしてチームを救った美技。その直前、川瀬晃選手はマウンドに近寄り、有原航平投手の腰に手を当てながら短く言葉をかけた。何気ないシーンにこそ、真実が隠されていた。

 16日の「2024 パーソル クライマックスシリーズ パ」ファイナルステージ初戦。1点リードの3回にターニングポイントは訪れた。1死二、三塁で矢澤に適時内野安打を許した直後、川瀬は有原のもとに駆け寄った。なお1死一、三塁で松本剛の強烈な打球は二遊間へ。これを川瀬がダイビングキャッチし、今宮健太内野手に素早くトス。4-6-3のダブルプレーを完成させ、ピンチをしのぎぎった。

 小久保裕紀監督が「なんといっても川瀬晃じゃないですかね。あのイニング、あのゲッツー。今日は川瀬に尽きると思います」と賛辞を惜しまなかったビッグプレーは、どのようにして生まれたのか。当事者の言葉からひも解いた。

「あそこは単純な確認です。(打球が)速いのだったらゲッツーお願いしますと。あとはもう、切り替えていきましょうと。あそこは自分もちょっと落ち着きたかったというか。最初のピンチだったので。声をかけることで(状況の)再確認というか、自分を落ち着かせるという意味も込めて(マウンドに)いきましたね」

 あの場面は今宮や栗原陵矢内野手が有原に声をかけてもおかしくないケースだった。それでも川瀬はすぐに右腕に駆け寄り、声をかけた。「有原さんを落ち着かせようというよりは、自分のためでしたね。有原さんは何年も投げているピッチャーだし、あの場面でどうしたらいいかなんて当然分かっていると思うので。自分は緊張していた部分もあったので、何かしゃべりたいなと。そこが一番でしたね」。

 9年目の今季は開幕1軍入りすると、1度も出場選手登録を抹消されることなく、自身初の“完走”を果たした。一方で、CSでのスタメン出場は初めてのことだった。自らのメンタルをコントロールするための時間を取ることが目的ではあったが、発言にも責任を持った。

「ああやって言葉にしたからこそ、守ってやるという思いはありました」

 川瀬の思いはエースにも伝わっていた。「ああいうタイミングで声をかけてくれると、気持ちを切り替えやすいので。その後のあのプレー。本当に助けてもらいました」。7回2失点の好投でチームを勝利に導いた有原は、自身の投球よりも後輩への感謝を真っ先に口にした。

 言葉をかけられた有原は気持ち新たに相手打者へと立ち向かい、思考をクリアにした川瀬は最高の守備を見せた。全ての根本は、プレーの直前にあった何気ない一瞬。野球の醍醐味が詰まったシーンだった。

(長濱幸治 / Kouji Nagahama)