現役を「辞めたらいいの?」 中村晃が激白…大歓声と誹謗中傷「誰がファンかわからない」

ソフトバンク・中村晃【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・中村晃【写真:荒川祐史】

中村晃から鷹フルのインタビューに応じた意図…伝えたかった真意を語る

 鷹フルによるソフトバンク・中村晃外野手の単独インタビュー。5日連続掲載の最終回、テーマは「ファンの存在」についてです。打席に向かう際に大歓声を浴びる一方で、誹謗中傷に「キツかった」と本音を漏らします。「誰がファンなのか、わからない」という真意を語りました。5回にわたる大型インタビューを受けた意図。厳しい声があふれた中で、愛されていると実感した出来事もありました。応援してくれる人たちとの距離感を、どのように考えさせられたのでしょうか。

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 中村晃の言葉に耳を澄ませた時間は31分29秒にも及んだ。5回という大型インタビューに、なぜ応じたのか。発端は、9月5日の出来事だった。

 背中を痛めたことで8月12日に出場選手登録を抹消された。体調不良も重なり、復帰戦は9月5日にまで伸びた。ウエスタン・リーグのオリックス戦(タマスタ筑後)に出場して3打数1安打。途中交代した後、取材に応じた。戦線離脱したことへの思いを語る中、最後にポツリと漏らすように言った。「応援してくれる人のために、頑張ります」――。

 一見、野球選手がよく使う表現にも思える。だが、この時だけは言葉の向こう側にある思いまで想像させるようなトーンだった。心からそう思って口にしたのだと感じた。9月7日に1軍再昇格。そして同20日に「応援してくれる人のために、頑張ります」という発言の真意について聞いた。中村晃の答えは衝撃的だった。「応援してくれない人がいますから」。続けて5分ほど、取材させてもらった。自身のもとに届く誹謗中傷について、胸中を語った。

 取材の直後、西田哲朗広報から伝えられたのは「もっと落ち着いた空間でしっかりと話がしたい」という中村晃の希望だった。広報部を通してインタビューを申請し、再び中村晃と向き合った。「なんか立ち話とかで、他に人がいたりすると、あまり上手く話せない時があるんです。落ち着いたところで話したい内容かなと。間違って伝わってしまったら嫌だなと思ったので、哲朗にお願いしました」と、意図を明かした。苦しんだからこそ、ファンとの距離感について考えさせられたシーズンだったという。

「やっぱり球場に来て応援してくれているファンの方の声と、ネットニュースとかで書いてあるコメントのどちらもあるじゃないですか。すごくギャップがあるなと思いました。どっちが本当なのかな、みたいな。球場に来て、僕が代打で出て行った時の大きな歓声が本物だと、僕は信じています。やっぱり最終的には応援してくれる人のために、これからも頑張りたいなと思います」

 代打で登場すれば、本拠地みずほPayPayドームは大歓声に包まれる。一方で、見ないようにしていても厳しい声は届いてきた。悩んだのは応援してくれる人と、そうでない人の“ギャップ”。SNSの書き込みだけでは、“顔”は見えない。「わからないですもん、誰がファンなのか」。プロ野球選手の重圧は「やっている人じゃないと、わからないと思いますよ」と言う。通算1427安打。これまで何度も試練を乗り越えてきた中村晃ですら、誹謗中傷は「キツかった」のだ。

「何なのかなって思いますけどね。どうしたらいいのかわからなくなります。『じゃあ、辞めたらいいのかな』とか。『試合に出なかったらいいのかな』とか思いましたし。よくわからない時期がありましたね。でも、打席に行ったら歓声はめちゃくちゃもらえるし、どっちなんだろうって。迷ったというのはありました。この1年で迷いもあって、その中でうまく自分で解釈して……。前には進めていると思います」

ソフトバンク・中村晃【写真:竹村岳】
ソフトバンク・中村晃【写真:竹村岳】

 愛妻には、9月に現役引退の考えも伝えた。「絶対に後悔する」と止められた。乗り越えるものは多く、苦しいシーズンだったからこそ、応援してくれる人への感謝は尽きない。「僕なんかはあれだけの声援をもらえるので、わかりやすいと言えばわかりやすいのかもしれないですよね。あれだけのファンの方の応援があるんだとわかった中で、打席に立てるのはありがたいことです」。どんなポジションになろうと、打撃を進化させるための歩みを自分から止めるつもりはない。

 10月4日のロッテ戦(みずほPayPayドーム)終了後、最終戦セレモニーが行われた。ファン代表でスピーチした少女から「一番好きな選手は中村晃選手です。ボールを打つ前の構えがカッコいいからです」と言われた。まだまだ愛されているんだと、実感する出来事だった。どれだけ心ない言葉を突きつけられても、応援してくれる人の存在があるから、何度だって立ち上がれる。

「どれだけ打てなくてもあんな大歓声をもらえますし。最終戦のセレモニーでも小さい子からあんなことを言われて、本当に幸せですよね。帰り道がいつもと違うような、幸せな気持ちになりました。家に帰っても妻に『こんなことあったよ』って話もしました。あの時は感動というか、勇気をもらいました。ビックリしました。あんなことを言ってもらえると、また頑張ろうとなりますね」

 最後に聞いたのは、応援してくれる人のためだけに届けたいメッセージ。“愛する男”らしい、朗らかな笑顔でこう答えた。

「やっぱり、応援してくれない人は操作できないので、仕方がない。打席に入る時のあの大歓声が後押しになって、僕も頑張ろうとまた思えました。そのためだけに頑張っている感じです。その期待に応えたい。今はただそれだけです。自分の成績どうこうよりも、来ている方に感動してもらいたい。そういう一打を打てるように、これからもやっていきたいと思います」

(竹村岳 / Gaku Takemura)