胸に刻まれた柳町達の一打…後輩の姿にも「勉強」 中村晃が読書に没頭した理由

サヨナラを喜ぶソフトバンクナイン【写真:小池義弘】
サヨナラを喜ぶソフトバンクナイン【写真:小池義弘】

単独インタビュー第4弾…「野球に限らず」シーズンを通して勉強したこと

 鷹フルによる中村晃外野手の単独インタビュー。5日連続掲載の4日目、テーマは「勉強」です。17年目の今季、のめり込んでいたのは読書だと明かしました。シーズンを通して自身が貫き通した姿勢についても語ります。「浮き沈みがあってはならない」「そこで自分の心がスッと静まる」。頼もしく思えた後輩たちの姿――。今も印象に残っているのは、優勝をグッと近づけた逆転サヨナラ打でした。

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 今季は101試合に出場して打率.221、0本塁打、16打点。小久保裕紀監督も「開幕からずっと難しいポジションを任せている」と語るなど、代打やレギュラー、さまざまな役割でチームに貢献しようとした。それでも中村晃は「難しいとは言いたくないですね」と受け止める。「全てにおいて、いい勉強をしたなと思います」。プロ17年目、どんなことを学んだのか。

「代打であったりとか、ベンチから見えることが多かったりしたので、そこがすごく今までにないというか。若い時があって、レギュラーになって、またさらにこういう立場になって……。そこで勉強していった感じです。難しいとかはあんまりなかったです」

 これまでにはないポジションを託された1年間だった。「勉強」という言葉を、もう少し具体的に語る。

「野球に限らずなんですけど。なんていうのかな。思い通りにいかないことはあるので、そこを自分の中で片付ける。年齢も柳田さんが(故障で)抜けてからは一番上だったので。後輩に気分が落ちている姿とか(を見せないように)、浮き沈みがあってはならないと思いました。自分をしっかりと整えて過ごしていくことはすごく勉強しましたし。レギュラーでやっていた時とはまた違う、いい勉強をしました」

 5月31日の広島戦(みずほPayPayドーム)で、柳田悠岐外野手が右ハムストリングを負傷。4か月もの間、戦線離脱した。中村晃も登録抹消された期間はあったが、今宮健太内野手とともにチームの先頭に立とうとした。自身の役割を「難しいとは言いたくない」と言い切ったが、後輩のためにも変わらない姿を見せ続けることは「難しいというか、しっかりと頑張らないとできないことだったと思います」と、本音を吐露した。

「簡単そうに見えて、簡単じゃないというか。そういうのはありましたね。野球以外で勉強することがたくさんあったのかなと。野球の面でももちろんあるんですけど。今までには感じなかったこと。気持ちを一定にさせておくことや、いざ試合に出た時にしっかりと自分がやるべきことができるように常に準備しておくことは、1年間通してしっかりできたかなと思います」

 松田宣浩さんをはじめ、これまで見てきた先輩たちを思えば、自分も後輩に弱さを見せたくはなかった。中村晃は喫煙もしない。気持ちを一定にする“スイッチ”のようなものについては「うーん、特にないですけどね」と笑う。その上で、思い出したように、のめり込んでいるものを明かした。

「今年はずっと移動中だったり、ロッカーで時間がある時や家にいる時、本を読むようにしています。そこで自分の心がスッと静まるというか、そういう時間になりましたね。今までもちょいちょい読んでいたんですけど。今年は何を思ったのか、バンバン読むようになりました。それは自分の中でも、いい時間でした」

 活字に関しては「あまり好きじゃなかったんですけどね」と笑う。「去年くらいからですかね、読めるようになりました。読む時間が『あ、いいな』って思うようになりました。年を取ったのかな」と、変化を語る。「小説はあまり読まないです。野球の本はもちろん、自己啓発本も読みます。最近だと、小久保さんの本はもちろん読みましたし、栗山(英樹)監督の本だったりとか、野球の本が多いですかね」と明かした。グラウンド上では全てが勉強。それ以外でも学ぼうとするのだから、その背中に多くの後輩が集まってくるのは必然だ。

ソフトバンク・中村晃【写真:竹村岳】
ソフトバンク・中村晃【写真:竹村岳】

 シーズンを振り返り、印象的なシーンを聞いた。挙げたのは、9月21日の楽天戦(みずほPayPayドーム)。1点ビハインドの9回2死一、二塁で代打の柳町達外野手が逆転の2点打を放ち、決着がついた試合だ。「あれで限りなく優勝に近づいた。あそこは、僕の中では一番。95%くらいは負け試合だったところから、勝つことができた。監督も叫んでいましたし、あの試合かなと思いますけどね。あの試合でほぼ決まったかなと」。歓喜の直前、中村晃は空振り三振に倒れていた。後輩に救ってもらったからこそ、サヨナラの喜びは忘れられない。

 正木智也外野手や海野隆司捕手ら、多くの若手がキャリアハイのシーズンを過ごした。一方で、ミスもして1軍の“怖さ”も知ったはず。そんな姿に中村晃も「いろんな勉強をしたシーズンだと思います。監督がどっしりされているので。ミスしても全然動じないというか。逆に消極的なことをした時の方が、『どうなんだ』という感じになると思う。そういう面では選手も思い切ってプレーができました」と代弁した。どんなポジションだろうと、身に起こる全てが勉強。チーム全体として、何倍もたくましくなった1年だった。

(竹村岳 / Gaku Takemura)