3回6失点の初登板…「投げていて笑える」 前田悠伍の“真髄”、メッタ打ちされた舞台裏

ソフトバンク・前田悠伍【写真:竹村岳】
ソフトバンク・前田悠伍【写真:竹村岳】

鷹フルが前田悠伍を単独インタビュー…1年目のシーズンで感じた課題と収穫

 鷹フルが前田悠伍投手の単独インタビューを行いました。大阪桐蔭高からドラフト1位で入団し、レギュラーシーズンを終えた左腕が感じた課題と収穫とは? また、プロ初登板となった10月1日のオリックス戦(みずほPayPayドーム)についても、詳しく振り返ります。周囲からの厳しい評価も「腹は立たなかった」。むしろ「投げていて笑える」と言い切る姿に、黄金ルーキーの“真髄”がありました。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 1年目の成績は、1軍で1試合に登板して0勝0敗、防御率18.00。ウエスタン・リーグでは12試合に登板して4勝1敗1セーブ、防御率1.94の数字を残した。レギュラーシーズンの全日程を終えて、1度しかないルーキーイヤーをどう振り返るのか。

「最初は球数制限から入って、完全にシーズンが終わったわけではないですけど、怪我なくやり通せたことはよかった点です。それは目標にしていたことでした。あとは、最初に比べれば多少は出力が上がりましたし、課題も改善されました。1軍で初登板できて、そこでまだまだ(実力が)足りないと。2軍のレベルではいけたんですけど、1軍になると通用しないことばかりだったので、いろんなことが経験できました。濃い1年というか、いろんなことを学べたシーズンだったのかなと思います」

 真っ先に出てくる記憶は、プロ初登板だった。10月1日のオリックス戦(みずほPayPayドーム)で3回6失点。少し時間が経った今、結果についても潔く受け止めている。

「全然通用していなかった。今のレベルが分かりました。全力で挑んで、あの結果だったので。今のままじゃ通用しないことも知れましたし、危機感というか。このままだとすぐに終わってしまう、そういう感じにもなりました。投げている最中は『これも打たれるのか』っていう感じで。悔しかったですけど、落ち込んだりすることはなくて。今は前を向いて取り組めています。いい経験といえばそうなのかなと思います」

 高校時代には全国制覇も経験した。1年生の時に、3年生相手に試合で投げたことがあるという。現在はオリックスの池田陵真外野手に本塁打を浴びた。「『楽しいな』っていうか、投げていて笑えるというか。もっともっと頑張らないとっていう気持ちになったんですけど、(プロ初登板は)それと似たような感じになりました」と言う。人一倍の向上心を抱く左腕。自分が挑んでいくべきハードルが明確になったからこそ、前向きな感情を抱いていた。

 前田悠は初登板の翌日に登録を抹消された。「現状では2軍で抑えることができても、1軍でもう1回投げたら同じような結果になるのかなと思います」と感じている。それほどまでに、1軍と2軍の差を明確に実感した。今の前田悠に必要なのは、どんな能力なのか。自己分析もいたって冷静だった。

「根本的な出力不足。100球投げて、100球がビタビタのコースに投げられるわけでもないので。ちょっと甘くなったところでも、ヒットじゃなくてファウルを取れるような球の強さも、スピードも、キレもない。そこは一番感じました。あとは、スライダーで三振が取れない。どうしても真っすぐとかチェンジアップとか、そっち系を張られてしまう。だからこそ、スライダーを決め球の候補の1つにしていかないと、しんどくなるかなと思いました」

プロ初登板時のソフトバンク・前田悠伍【写真:竹村岳】
プロ初登板時のソフトバンク・前田悠伍【写真:竹村岳】

 初登板となった10月1日のオリックス戦では、3回無死一塁からセデーニョに2ランを浴びた。スタンドに軽々と運ばれたのは、アマチュア時代から自信を持ち、ウイニングショットにしてきたチェンジアップだった。「特に甘かったわけではなかったと思う。いいところに決まったと思ったボールを打たれたのは悔しかったです。『これを打たれるか』って気持ちが一番強かったです」。1ストライクからの2球目を捉えられただけに、「(チェンジアップの)1球前にインコースにいけたら結果は変わっていたかもしれない。これも簡単に打たれるかっていう気持ちでしたね、一番強かったのは」と冷静に分析していた。

 首脳陣からは厳しい評価が相次いだ。小久保裕紀監督が「見ての通りメッタ打ちですね」と語れば、倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)も「これで『オフの取り組みがより良くなるね』という話をしました。これで挫折して終わるなら、それまでの選手」と話した。エリート道を歩んできた19歳の左腕にとっては悔しい言葉ばかりが並んだが、どこまでも足元を見つめていた。

「それは事実なので。もし僕が『今日(打たれたの)はたまたまで、絶対に通用する』と思っていたら、腹が立つと思いますけど。自分が一番(現在の実力を)実感したというか、身に染みて感じたことなので。腹も立たなかったですし、おっしゃっている通りだなというか、同じことを感じていたので。怒るとかそういう感情は全然なかったですね」

 初登板後にはウエートトレーニングをして、自室に戻った。「その日のうちに動画も見返して、反省も野球ノートに書きました」。そして「一通りの振り返りをしてからは、すぐに寝られましたね」というのだから、19歳とは思えないほどに地に足はついていた。投げていて、笑える――。底知れぬ向上心が表れたデビュー戦だった。

(竹村岳 / Gaku Takemura)