「『最近、調子どう?』みたいな感じで話しかけてくださったので、それでいろいろ会話してました」。そう明かしたのは前田悠だ。軽い挨拶程度ではなく、和田は身振り手振りでルーキー左腕に何かを伝えていた。
入団時から目標とする選手として、「和田毅投手」と名前を挙げていた前田悠。憧れの先輩と交わした“ほぼ初めて”の会話。得たものは何よりも大きかったようだ。
「僕は曲がり球(スライダー)がちょっと苦手というか、まだ制球しきれていない部分があるので。そこを聞いていました。それで『こういう考えで投げた方がいいんじゃない?』ってアドバイスをもらって。今ちょっと試しています。カーブはある程度、制球できるんですけど。スライダーがまだちょっとなので、そのことについて聞いていました」
前田悠の的確な自己分析は、ルーキー離れしたものだ。「最近、調子どう?」と駆け寄ってくれた和田に自らの課題を端的に伝え、もらった助言をさっそく取り入れた。ただの世間話で終えることなく、自らの成長につなげようとする姿勢。驚くべき19歳だ。
和田の第一印象は、同じチームの先輩というよりも“レジェンド”だったという。「めちゃくちゃ歳が離れているので、先輩っていう感じはないです。テレビで見てた人、みたいな感じですね」。しっかりと会話をしたのは初めてだったという。「(春季)キャンプの時、たまに話すぐらいだったんですけど、あれだけしっかり喋ったことはなかったですね」。憧れの人は「優しかったです」と笑顔だった。
プロ1年目から自身と同じサウスポーの素晴らしい手本が近くにいることは、前田悠にとってこの上ない環境だろう。和田のキャッチボール姿1つを取っても、学びの連続だった。
「ずっとフォームが一定というか。やっぱり“自分のフォーム”っていうのが完成しているし、(全てを)知ってるっていうようなキャッチボールだったので。リズムの中で全部投げているなと感じたので、やっぱりすごいなと思います」。自身も大阪桐蔭高時代に西谷浩一監督からキャッチボールの重要性を叩き込まれただけに、尊敬の念はより強まった。
少しでも早く、その背中に近づきたい——。プロ22年目のベテランを見つめる黄金ルーキーだが、こんな楽しみな“証言”もある。先日、和田が3軍戦に登板した際、高卒1年目の藤田悠太郎捕手がマスクを被った。和田にとっては娘の1学年上という藤田悠とのバッテリー。「息子だと思って投げました」と笑顔で表現していた。
ボールを受けた藤田は「ピュッとくる感じで垂れない。悠伍の球とマジで似てました」と興奮気味に語った。もちろん、その球質や経験値、投球術など和田の貫禄をまざまざと感じたが、投球スタイルとしてはベテラン左腕に近いものを前田悠に感じたと、目を丸くしていた。
マウンド度胸、野球に向き合うストイックさにしても、前田悠はベテラン左腕に通ずるものがある。9月25日に出場選手登録された和田とともに「プロ初登板」を見据えて1軍に合流したルーキー左腕。来るべき“門出”をきっと、憧れの先輩はブルペンから見届けてくれるはず。ホークスのこれまでを背負ってきた左腕と、これからを担う左腕が紡ぐエース左腕の“系譜”。1軍初競演が楽しみだ。